仕事辛ぇ!
休みてぇ!
ストレス解消してぇ!
温泉入りてぇ!
箱根に行くぞぉ!
ということで向かった箱根への道中についてまとめた記事だ。
目次
ストレスon the ストレス
過剰なストレス状態が続くと人間はどうなってしまうのだろうか。
Google大先生にお聞きすると、頭痛や腹痛に加えて酷いと円形脱毛症といった体の不調が溢れ出てしまうそうだ。それに加えて、不安やイライラといった心の不調も出てきてしまうそうな。
大変だ。その症状が出てきている。10月の下旬。私はどうもストレス過剰状態に陥っているようだ。
ミスタードーナツを無意味に5個買って、3時のおやつはミスタードーナツと称して一度にハイカロリーを体に押し込んでしまった。自分はいつもストレスを解消するとなったなら食に走ってしまう。腹に詰め込まれた食品たちが自分の血液を通って安定をもたらしてくれる。そう信じている。
それに加えて、最近はいつもどこかむしゃくしゃして、国会議事堂に小便でも引っ掛けてやろうかと思っていたりもする。これはまずい。明確なストレス症状だ。
そろそろストレスを解消せねば。ただ、食に走ってしまうのは危険だ。体重の増加・血糖値のバク上がり・高血圧などなど。それは非常によろしくない。そうなれば、もう一つの選択肢を取ろう。
古より伝わるストレス解消法。それはなんだろうか。
温泉だ。
温泉といえば?
箱根だ!
というわけで、箱根に行くぞ!
ストレスは解消したいが…
10月23日火曜日。私は世間の足並みに抗って、平日休みを入手した。むしゃくしゃして、スカイツリーの展望台から飛び降りてしまいそうなほどに苛立っていた私は、ストレスを箱根の温泉で溶かすことに決めた。
東京近郊から箱根へ向かう方法としては電車であれば2ルート存在する。
まず1つ目には新宿から小田急電鉄に乗り込んで一路小田原を経由して箱根の玄関口である箱根湯本を目指すというものだ。
小田急電鉄が誇る特急列車「ロマンスカー」に乗り込んでしまえば、大都会・新宿のど真ん中から約1時間30分で箱根湯本駅に到着してしまう。箱根へのアクセスはこれが王道だ。
2つ目には東京駅から東海道線で下っていき、同じく小田原を目指す。乗り換えて箱根湯本駅へというものだ。
東京駅から乗車すると仮定し、JR東日本が運営する東海道線に乗れば小田原へ約1時間20分程度。JR東海が運営する東海道新幹線に乗り込んでしまえば、東海道線の半分となる約30分で小田原に到着してしまう。
この2つが主立ったルートである。ただ、2つのルートにはそれぞれ欠点が存在する。
まず1つ目の小田急で箱根を目指す方法には、混雑著しい新宿を経由する必要がある。ここ最近はむしゃくしゃしてしょうがないというのに、人混みを掻き分けていくのはとっても億劫だ。それに、ぶつかりおじさんと遭遇したら新宿のど真ん中で世界バンタム級王座決定戦を開催してしまいそうになるだろう。これが最大のネックである。
次に2つ目の東京から東海道線・東海道新幹線を利用するという方法だが、東海道線は朝夕ラッシュ以外でも混雑していて座席に座る確実性が薄い。
「座席に座れないならグリーン車を使えばいいじゃない」と、かの有名なマリー・アントワネットも言っていたそうだが、東海道線のグリーン車も混雑を極め、殴り合いをしてでも奪い合うという程の魔境である。
「じゃあ、東海道新幹線を使えばいいじゃない」とマリー(以下省略)、東海道新幹線は純粋に高い。運賃にプラスして1700円ほどの特急券を購入する必要がある。しかも前述の小田急ロマンスカーよりも値段が張る。ストレスを解消したいのに金銭の不安が付き纏うというのはよろしくない。
なら、どうしたらいいのか。人の混雑を回避し、値段もそこまで高くないほうが良い。そんなぴったりな特急列車あるんですかぁ?
あるんですねぇ!
ということで現れるのが、ロマンスカーを運行する小田急電鉄と相互直通運転をしている東京メトロが運営する「メトロはこね」である。
人がひしめき合う北千住で優越感に浸る
小田急電鉄の「ロマンスカー」は新宿駅から発車して小田急本線で小田原へ向かっていくのが原則だ。しかし、「メトロはこね」は相互直通運転をしている東京メトロの千代田線・北千住駅から発車するという、地下鉄内を走るロマンスカーとして運行されているのだ。
北千住を発車した後、千代田線の主要駅である大手町・霞ヶ関・表参道と停車した後に代々木上原から小田急本線へ入り込む。小田急本線の線路を進んで列車は小田原へ。小田原からは小田急箱根鉄道線へ進み終点の箱根湯本駅へ到着する。
ということで早速、当日の光景と共に紹介していこう。
発車前の北千住
特急の「メトロはこね」は北千住を9時47分に発車する。
平日は「メトロはこね」に加えて、18時14分発の「メトロホームウェイ43号」も北千住から発車する。つまり、千代田線の北千住駅からは2本の列車・朝と夕の時間帯に発車する。
特急が発車する時間帯はラッシュのピークから抜けている時間帯ではある。ただ、ホームは列車が到着するのを待つ人や列車から降りてJR線・日比谷線・東武線・つくばエクスプレス線へと乗り換える人々でホームはひしめき合う。
乗車当日も例外では無かった。千代田線の北千住駅は島式ホームとなっていて、狭苦しく且つ煩さがある。ただ、ここはポジティブに捉えたい。
スマートフォンを持って、電車を今か今かと待ち続ける人たちに対して心の中で思う。
「今から皆さんお仕事ですかぁ!いやはや大変ですなぁ!私はね、これからね、温泉に入りに行くんですわ!羨ましいでしょう!」
心の中で思うのは無料で誰にも侵せない聖域である。このマインドを持つことで、ストレスによってくすんでしまった自分の心がゆっくりと正常へ向かっていくような気がする。
「メトロはこね」で得られる栄養。それは優越感ではないだろうか。この優越感は最後まで傍受したい。
「メトロはこね」に乗車するには座席を指定した特急券が必要だ。
その特急券の購入方法として、小田急のインターネット予約サービス「e-romancecar」スマホアプリの「EMot」や小田急線内の券売機や窓口で購入することができる。
それに加えてホーム上にわざわざ発売機が設置されており、特急が発車する時刻の60分前つまり8時47分からホーム上で発売されることになっている。ただ、平日の朝ということもあって発売機の出番というのは残念ながら少なそうだった。
北千住を9時43分に発車する代々木上原行がホームから去ると、ホーム上に設置された発車案内板には「メトロはこね21号・箱根湯本」という表記に変わった。そして、遠くからロマンスカーのミュージックホーンが地下鉄の向こうから轟いてきた。
滑り込んだ列車は綺麗な水色。無機質で暖かみの薄い地下鉄のホームでは映えて見える。
千代田線の9時台は4分間隔で運転していることもあって、特急列車が到着してすぐ発車するアナウンスが流れた。ぞろぞろとゆっくりと扉へと乗客が飲み込まれていく。そして、次の列車を待つ人々がその光景を眺めている。そう思うだけでも優越感が止まらない。
車両・MSE
ここからは車両について並べていこう。
今回乗車した「メトロはこね」で使われる車両は小田急60000形電車・愛称MSE(Multi Super Express)である。この車両は地下鉄に乗り入れることを想定した特急車両として製造された。
愛称であるMulti Super Expressという名の通り、MSEは様々な運行に駆り出されている。今回の「メトロはこね」のみならず、JR東海の御殿場線へ直通する特急「ふじさん」の運行でも使用される。
最大10両編成で運転されるが、小田原〜箱根湯本間はホームの関係上6両編成で運転される。そのため、後ろ4両は小田原で切り離される。
座席
座席に注目しよう。
灰色のシートで、触り心地はサラサラとしている。
硬さは東海道新幹線やJR東日本の特急ひたちの座席のに似てるかなぁ。という印象だ。ネットで調べてみると「MSE 硬い」という印象がどうも皆さんはあるようだ。長くても2時間程度という乗車時間ではあるが、人によっては腰に来るものがありそうだ。
テーブル
新幹線や特急車両でよく見かける前席の背面についているテーブル。それがMSEには存在しない。代わりに手元の収納式テーブルを取り出して使用する形となっている。
木目調が印象的で弁当やお菓子といったものを置いておくには十分なサイズのように思える。
ただ、特急乗車中にパソコンを使って仕事をしよう。という考えの人からは少し心許ない。また裏面がテーブルの縁(金属部分)と擦れて傷が付いてしまいそうな感じも否めない。
機能性とデザイン性を兼ね備えた木目調のテーブルを採用。
お食事やお飲み物を楽しめるだけでなく、ノートパソコンも置けるので出張でのご利用にも便利です。-小田急・ロマンスカー公式ホームページより引用
まぁ小田急としてはノートパソコンも置けるけど、「箱根に行くための列車なんだから仕事はしないでよ」という思いもあるかもしれない。
前面展望はない
小田急ロマンスカー最大の特徴として「前面展望」がある。
車両の先頭車両がガラス張りになっていて、走行中に前方を見通せるというのが特徴だ。が、MSEには前面展望車両がない。地下鉄内を走行する性質上、先頭車両には貫通扉(列車の車両間を移動するための貫通路を仕切る扉)があるということもあって、前面展望が設定されていない。
コンセントもない
続いて、MSEにはどの座席にもコンセントが用意されていない。デジタルデバイス全盛期の時代にコンセントが無いのは少々どころではなく、物足りなさがある。
現在、小田急ロマンスカーとして運行される車両にコンセントが有るのは2018年に登場した「GSE」とMSEよりも前に登場している「EXE」の改良形「EXEα」にしか用意されていない。
なんだか時空の歪みを感じる。なぜMSEよりも古い車両である「EXEα」にコンセントが有るのだろうか。
それは、時系列としてMSEの登場が2008年に対して「EXE」の改良が2017年から開始されているからだ。
iPhoneが日本で初登場したのは2009年のiPhone 3GSから。2017年はiPhone Xが登場。スマートフォンの普及のことを思えば、MSEが登場した当時はスマホという概念なんて無かったに等しく、コンセントが無いのは必然のようにも思える。ただ、付いていて欲しいなぁ。とは思わずにいられない。
ちなみに、引退してしまったVSEにはコンセントは無かった。
北千住で待つ人々を尻目に発車する
長々と車両の紹介をしてしまったが、ここから乗車記となる。
今回は3号車の座席を抑えた。進行方向向かって左側の座席だ。
乗車する際には1・4・5・7・8・9号車の扉からしか乗り込めないため、少々混雑する。なので、予めホーム上に設置されている看板を目印に並んでいるのをおすすめしたい。
列車が到着して数分。ホームで電車を待ち続ける人々を尻目に、メトロはこねは北千住を発車した。
ゆっくりと暗い地下を車両が進んでいく。千代田線の北千住を出ると山手線との乗換駅である西日暮里・新御茶ノ水と主要駅を通過していく。
その瞬間がどうもたまらない。控えめにいって、楽しい。
ホームでスマートフォンを眺めているところをビュンと勢い良く飛ばしていく特急。クゥ~と心に来るものがある。
そして、大手町へ。大手町には10時04分に到着する。この駅では乗車専用停車となっており、原則降車することはできない。
大手町はオフィス街や金融会社が立ち並ぶ地域に所在し、東京駅にも近く地下鉄の中で画もトップクラスの主要駅だ。そんな所に特急で到着するのは、優越感はピークに達する。
「皆さん!お仕事お疲れ様です!私ね!今からね!温泉にね!入りにね!行くんですよ!箱根ですよ!」
とホームに立つ人々を煽りたい気持ちでいっぱいである。
しかし、到着した時刻はとっくにラッシュが終わってしまっているからかホームに立つ人は少ない。しかも、誰も特急に目を留めない。
まぁ、そんなものか。とどこか落胆を感じながら、列車が大手町から発車した。
その後、霞ヶ関に着いて、
「皆さん!」
残念ながら人はいない。
表参道に着き、
「み、皆さん!」
と見渡すが
いない。
煽りてぇ…煽りてぇよぉ…
と思って周りを見渡すと、同じ号車の人々は遅めの朝食を食べていたり、静かに眠っていたり、同乗する友人とお話をしたりと地下鉄というありふれた環境の中で自分の時間を大切に過ごしているではないか。
その瞬間に、「なんて自分は卑しい人間なんだ…!」と愕然とした。
地下鉄内の通過で味わえる高揚感を優越感と受け止めてしまった。
純粋な楽しみに使わず、煽りに使ってやろうという自分の感情。ホームに立つ人に中指を立てたり、変顔して煽ってやろうと思っていた自分。なんたる恥。
メトロはこねはそんな気持ちを募らせるべく運転しているのではない。日常の中に咲く非日常を受け取ることができる大切な列車である。
人を煽る前に、自分を労れよ。人のことを気にする前に、自分の世界に浸れよ。それが旅行ってもんだろうが。
なんだか、メトロはこねから大切なことを教わったような気がした。
小田急線へ
千代田線内で自分を恥じていると気付けば代々木上原に到着していた。代々木上原で一度列車が運転停車し、乗務員が東京メトロの運転手さんから小田急電鉄への運転手さんへ交代。いよいよ列車は小田急本線内に入っていく。
途中で小田原行の快速急行と並走した。乗っている人たちはこちらを一瞥することもしない。私は先程まで変顔してでも煽ってやろうと思っていたが、メトロはこねから教えてもらったことを胸に秘めて、静かに快速急行を見届けた。
成城学園前に停車した後は町田・本厚木へと列車は進んでいく。
途中の海老名で相鉄線と交わる。相鉄線の車両を見かけることが生活圏内では無いので、思わず見つめる。
小田急本線の小田原から終点の箱根湯本へ。
2024年に小田急グループの再編成が行われたことで箱根登山鉄道という社名が消滅。現在は「小田急箱根」へ、路線名も「小田急箱根鉄道線」として運営されている(愛称は「箱根登山電車」)。
線路が左へ大き曲がった先に特徴的な建物が見えてきた。いよいよ箱根湯本への到着だ。
箱根湯本に着く
箱根湯本に到着し、ホームに降り立った瞬間に体が震えた。東京都内の気温よりも低いとされる箱根。雨も合わさって空気が冷えている。
ホームに立った時に苛立っていた気持ちと疲れが静かに流れていくような気がした。余裕が生まれたのだろう。
特急に乗り込んで汚らしい感情が静かに非日常を体験したことで洗われたような気がする。
皆さんも「メトロはこね」に乗り込んで、日常の中を縫って進む特急列車に乗り込んで、非日常を謳歌してほしい。
単純な移動手段ではなく、新たな発見や心の余裕が生まれるかもしれない。