僕を18時間掛けて北海道に連れて行ってくれ・商船三井フェリー『さんふらわあ』/2日目

僕を18時間掛けて北海道に連れて行ってくれ・商船三井フェリー『さんふらわあ』/2日目

ということで、2日目の記事です。1日目はこちらからどうぞ↓

僕を18時間掛けて北海道に連れて行ってくれ・商船三井フェリー『さんふらわあ』1日目
北海道へ行くなら。そんなの明白だ、1番は飛行機だ。 次点で新幹線になるだろう。新函館北斗まで行って、そこから特急に乗り換えるか。それもまたよし。 ただ、同じこと…
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大浴場で冷えた体に熱を染み込ませた後、窓のない部屋へ戻る。ベッドに横たわって、何をするわけでもなく天井を見上げていた。時刻は23時を超えそうな時に自然と眠気が襲ってきた。揺れというのはうっすらと感じ取れるが、それがまた眠気を誘う。

はっ、と気付いてムクリと起き上がる。窓のない部屋。時間は進んでいるのか、止まっているのかはっきりしない。それでも、短くない時間で睡眠状態に陥っていたことは体に聞けば分かった。

しかし、睡眠時間が何分だったのか何時間だったのか全くわからない。慣れないフェリーの旅に疲れてコールドスリープ並に眠った可能性も否めない。そう思うと妙な焦りが生まれた。部屋を見渡しても今の時間がすぐにはわからない。現実の時間を知るべく、部屋の扉を開けて共有スペースのある場所へ飛び出した。

共有スペースでどんちゃん騒ぎをしていた中国人の観光客やパソコンとにらめっこしてキーボードを叩き続けていた男性も、全員いなくなっていた。フェリー全体が静寂に包まれていて、まるで乗客乗員全員がどこかへ連れ去られてしまったかのようだった。そして、窓を見遣ると向こうは漆黒の闇だ。

壁に掛かっていた時間を見ると短針は3を指していた。

どうやら、自分は短い時間でしか眠れなかったようだ。想像以上にフェリーの旅にやられているようだ。

二度寝をすると決め込んだが、また3時間程度しか眠ることが出来なかった。

要因はなんとなくわかっていた。ベッドの上で横たわるものの、フェリーが進む方向に引っ張られている感覚が気になって、結果として眠りが浅くなってしまった。

起き上がってみると、3時の時には無かった、「体が引っ張られる感覚」が染み付いてしまった。普通に歩いている時も座っている時も片方に引っ張られる感覚が消えない。これは厄介だなと思わずにいられなかった。

窓がない部屋にも少々嫌気が差してきて、共有スペースへ飛び出した。窓から見える景色は白い雲と広く濃い青色をした海が見えた。それを見た瞬間に、どこかホッとした。やはり人間は広い空間を認識できないと生きていくことは出来ない。そう悟った。

きれいな丸の中に浮かぶ海は綺麗でしたね。

時刻は朝の7時前。折角なので展望デッキへ行ってみることに。扉を開けると信じられない程に冷たい風が船内へ侵入してくる。そして、一気に体の熱を奪っていく。パーカーにスウェットパンツという冬舐めてんだろという格好で風を押しのけて進む。

普通に写真を撮りましたけどね、馬鹿みたい寒いんですよ。手がかじかむんですよ。秒でね。

雲は切れ切れになっていて、橙色に染まる空が見える。下には静かで落ち着いている海が広がる。

綺麗でしたねぇ。でも、寒かったですねぇ。

遠くには町並みが広がっている。何県なのか何町なのか、向こうにいる人達からは自分の乗るフェリーは見えているのだろうか、それらが全くわからないままフェリーは北へ直進していく。

町並みが見えたけども、ここがどこだかわからない。そして、あちらにいる人も自分がいることさえわからない。

太平洋側へ移動すると大型船舶が進んでいる。青々しい海の真ん中、静かに船が進んでいく。あの中にも人が乗り込んで、人が船を動かしているんだから不思議なものだ。

フェリーが進んでいくと雲が厚くなってきた。その分厚い雲の隙間から朝日が見えてくる。船旅でしか味わえない光景だ。

流石にバカ寒みぃので展望デッキから中へ避難する。

忘れていた揺れとの闘いである

朝食を食べ終えて、後は苫小牧に到着するのみになったフェリーの旅。

何度かバカ寒みぃ展望デッキへ飛び出しては写真を何枚か取り続けることをして、時間を潰す。中には空からの光芒を見ることも出来て、かなり満足。

しかし、9時頃から揺れが次第にはっきりとしてくる。それ以前までは体が一方向に引っ張られる感覚が強かったのに対して、体が左右に振られる感覚が強くなってきた。

そして、10時頃になればその揺れは更に大きくなる。左に強く体が持っていかれたと思えば、右に一気に持っていかれる。そして、また左へ。これをずっと繰り返される。

フェリーに乗り込んで一番の揺れだった。この揺れが地味に厳しい。胃の中をゆっくりとシェイクされるような感じがして、一気に気持ち悪さが強まる。

こんな揺れの中でも共有スペースには多くの人がいた。お菓子を食べていたり、友達と馬鹿騒ぎをしていたり。そんな中で自分は揺れに負けて表情を曇らせるの で精一杯だった。少し横になろう・・・。部屋に戻って、自分に降り掛かっている厳しい現実から逃れるように、眠ることに決めた。

ただ、この揺れで長時間眠れるわけもなく30分程度しか眠れなかった。酔い止め薬を用意しておけば幾らかマシだったのだろうか。幸い吐き気とまではいかないが、気持ち悪さは止まる気配が無い。

10時30分頃になって、揺れが少し収まった。気持ち悪さが続いて、かなりやられてしまった。少し外の空気にでも吸いに行くか・・・と部屋を出る。廊下を進むと、とある部屋から「ホォエェェェェェェェェェェェェ」という音が聞こえた。

おいおい、どうした?大丈夫か?喧嘩か?と思っていると更に「ホォエェェェェェェェェェェェェ」と同じような音が。そしてまた揺れが強まると「ホォ、ホォエェェェェェェェェェェェェ」と聞こえる。

これは吐き出しておる。中にいる見知らぬ人が吐いている。あなたも自分と同じく楽しいフェリー旅ができると思ったのだろうけども、厳しい現実に直面しているようだ。どうかご自愛いただきたい。

廊下を進んでいる最中にも

「ホォ、ホォ、ホォエェ」

という音が小さく響いていた。

後、この音を聞いて古の2ちゃんねるでよく見た「鳥が吐くアスキーアート」を思い出した。

オエー鳥がイラスト付きでわかる! 鳥が目を剥いて「オエー!!」と嘔吐しているアスキーアート。 概要 鳥が目を剥きながら「オエー!!」しているAA。 元ネタは「フ…
dic.pixiv.net

それだけ揺れが厳しく、やられまくっている人がいたということだ。

いよいよ苫小牧へ

揺れが収まり、なんとか気持ち悪さも収まってきた。展望デッキへ出ると山々が姿を表す。いよいよ、北海道が近づいてきた。

太陽も真上で光っている。

海を眺めていると、本当に海って続いているんだなぁと思わずにいられない。当たり前のことなんだけども。

苫小牧は北海道内でも最大級の工業都市。フェリーからも多くの工場が見える。

石油・石炭・紙・自動車部品と多種多様な工場が出迎える。

大型船舶もチラホラ。

長時間漂ってきた海を眺めに行く。フェリーよりも全然小さい船がすれ違いざまに海へ向かっていく。

夕食と朝食を過ごしたレストランは昼食の営業を終えた後は開放されていた。

13時30分到着

苫小牧港に到着。到着といってもフェリーが大きく揺れることはなく、少しグラリとするぐらい。下船するには時間が掛かるということと、乗用車・トラックで下船する場合は準備をするようにというアナウンスが響く。

18時間というのは数字で見れば非常に長い時間だ。この時間があれば、スターウォーズをエピソード1〜6を見れてしまうし、水戸黄門なんて18話も見れてしまうサザエさんだと36回も見れてしまう

外は寒かったし、ネットは繋がらない、揺れはひどい時間もあったしと快適と言えない時間もあったりした。しかし、呆気なく18時間が過ぎ去ってしまったなぁという感想がある。個室でプライベートな空間を確保できたこと、食事に困らなかったこと、この2つが大きくフェリーでの生活を向上させたと思える。

「徒歩での下船の方は5階からお降りいただけます」女性のアナウンスが響く。これにて、フェリー18時間の旅は終了である。

フェリーを降りてブリッジを歩いていると自分が乗ってきた「さんふらわあ」が見えた。

乗船時と同様にブリッジへ向かう。そのブリッジには、これから交代で乗船するのであろうスタッフの人たちが待っていた。スタッフの皆さんがいなければ、快適なフェリーの旅というのは成立しない。大変な仕事である。

フェリーターミナル内へ入っていくと出発案内が掲示されていた。その中には数時間後に出発する「さんふらわあ」の表記があった。

フェリーターミナルから苫小牧駅へ

フェリーターミナルを降りて、ここから苫小牧駅へ向かう。

フェリーターミナルから苫小牧駅までバスが出ていて、「さんふらわあ」到着に合わせた時間で始発のバスがやってくる。出発時刻は13時56分。

バスに乗り込んだ人は自分を含めて10人程度。大型バスで座席には余裕があった。このバスに乗り込めば、苫小牧駅を経由して最終的には札幌駅前まで向かうことも可能だ。このバスでは交通系ICカードも利用可。

バスが苫小牧駅に到着して、降りたのは自分を含めて2人。みんな札幌駅前まで向かうのだろう。

苫小牧駅から札幌駅へ

苫小牧駅から特急すずらんに乗り込んで札幌駅へ向かおう。特急は14時22分にやってくる。

最近の東京や大阪の駅では洗練されたデザインで行き交う人々に情報を提供しているが、こういったシンプルなデザインもいいよなぁと思うんですよね。

特急がやってきた。同じバスに乗り込んでいた人も同じホームで特急を待っていた。

はい!大失敗です!

特急に乗り込んでしまえば札幌駅まで1時間もしないで到着する。フェリーとは比べ物にならない速さだ。

でも、ビュンと移動するのもいいけど、じっくりと時間を掛けて移動するというのもまた旅行らしくて良かったなぁ。と思いながら、大橋俊夫さんの「まもなく終着、札幌、札幌です」というアナウンスを聞き取る。