大阪・京橋。日曜午後10時。
人々の活動がもう少しで重苦しく憂鬱な月曜日へ移りゆく中、自分は静かにホテルを飛び出した。寝屋川の上にかかるプロムナードを進んで、JR西日本の改札ではなく、京阪電車の改札を通った。
なぜそこに行くのか。どうやら京阪電車には中之島線という路線があるそうだ。その路線は日中帯でも利用者数が少なく、ガラガラだ!という話らしい。
なるほど・・・ならば、人気の少なくなってきた日曜日夜10時に行ってみたならば、どんな景色が見れるのだろうか。万博で人がごった返す大阪。少し違った姿を見せてくれそうだ。
緑と白を身にまとった京阪電車に乗り込んで、梅田と難波の合間に存在する島・中之島へ自分は滑り込んでいく。
中之島線ッてなんだッ!
関西地方には様々な鉄道路線が存在する。JR西日本が大阪・京都・神戸・奈良・和歌山と殆どの地域に路線を張り巡らせているが、それらと肩を並べるいやそれ以上にインパクトのある私鉄路線が5つもある。
その私鉄路線の1つ「京阪電車」は大阪のビジネス街・淀屋橋から淀川に沿うように京都へ向かう京阪本線、支線の高野線・宇治線、京都と滋賀を結ぶ京津線や石山坂本線と多くの路線で成り立っている。

そして、今回のテーマとなる「中之島線」は京阪本線の天満橋駅から分岐して、梅田と淀屋橋の丁度中間に位置する中之島へ向かう。
大阪の都心部も都心部に位置する中之島線だが、利用者数が年間3万人程度とあまり多くはない。
隣接する京阪電車のターミナル駅である淀屋橋駅は、大阪メトロの御堂筋線との乗換駅であるため非常に混雑しているのに対して、中之島線の中之島駅はどの路線とも接続していないという状況。
利用者数が伸びていない理由は様々だろうが、梅田や難波といった周辺地域に商業施設があるわけでもなく、更には運用の面で京阪電車の特急・ライナーがやってこないという点もある。
ただ、新今宮駅から大阪駅そして東海道新幹線の新大阪駅を繋ぐ「なにわ筋線」が将来的に開業した際には中之島駅も開業する予定となっている。将来的には中之島線の利用者数も増加する。のかもしれない。
そう思えば、今のうちに人気が無いという京阪中之島線を見に行ってみたいと思ったわけだ。
中之島駅へ行くんだ
泊まっているホテルから寝屋川の上を通るプロムナードへ入り、そのまま京阪電車の改札へ。

JRと京阪電車との乗り換え口でもある中央改札口は日曜日の夜であっても人が多く行き交っていたのに対して、ここ片町口改札は人が少なく、なんだか寂しさを覚えるほどだった。
改札に交通系ICカードをタッチすると「ピピッ」と甲高い音が響く。しかし、そんな音はすぐに消えてしまう。

階段を上がっていくと、遠くから電車のモーター音が聞こえる。京阪電車ではおなじみ、緑と白色の電車。電車は「中之島」という表示。22時13分に発車する。
遠くの方では車掌さんが発車時刻を待っていた。自分はその光景を横目で見やりながら、車内へ入り込む。自分の想定していたよりも人は多く乗っていた。
「今から中之島線の各駅に行く理由ってなんですか?」と1人1人聞きたいぐらい結構乗っていた。
というか今思い返せば、先に乗っていた人からしてみれば、「あいつ、京橋駅から中之島へ向かう電車に乗り込んできたぞ・・・!?」と訝しんでいたに違いない。
電車はゆっくりと発車し、終点の中之島駅を目指していく。途中で天満橋駅に停車。しかし、乗り込んでくる人は当然のようにいない。乗っていた人の多くが天満橋駅で下車。

ここ天満橋駅には大阪メトロ・谷町線が乗り入れている。梅田にも天王寺にも行ける路線だ。降りていく人が一定数いるのには理解ができる。ただまだまだ乗り続ける人がいるのには驚いた。というか、その中に自分も含まれているのだけども。
電車は中之島線の各駅に停車した後、終点の中之島駅へ到着。青の背景に中之島と書かれたディスプレイ。京阪電車に乗ると、このディスプレイが印象に残る。

ホームに降り立って向こう側のホームを見る。壁には中之島駅の駅名標が埋め込まれている。

そして、上部には同様の駅名標が。青と白。やはり目に残る。

中之島駅
中之島駅の時刻表を見てみよう。

京阪電車では速い順から、快速特急・洛楽→特急→快速急行→急行→準急→区間急行→普通(各駅停車)と種別がある。
平日の中之島線は区間急行と普通が殆どで、12時〜16時では普通しかやってこないという状態。ラッシュ時間帯には特急や準急がやってくるが、寂しさは隠しきれない。

これが土休日となると、中之島線各駅の需要が少ないからか普通が殆どという状態である。

中之島駅は単純な島式ホームじゃない。南側は行き止まりの状態だが、


1・2番線側の北側には3番線ホームが存在する。ホームの端にある3番線、通常の運用だと3番線に電車がやってこないため、照明は消され入場規制もされている。

階段を上がり中之島駅の改札へ。駅員さんがいるであろうウォークインカウンターには人がいない。というか、人がいないのにいたら怖い。

改札はずらりと並んでいるが、よーく見ると使用停止している改札が殆ど。まあ省エネ対策が叫ばれる世の中。致し方ない部分もある。
京阪電車では特急の一部車両にプレミアムカーを連結している。そのプレミアムカーに乗車する際に必要なプレミアムカー券を発売する券売機が設置されていた。

ただ、時間的に利用は不可能。真っ白な画面が表示されている。
コンコースに目を向けると、

寂しいというか悲しいというか。人っ気が殆どない。逆に誰かに見られているんじゃないかとさえ思ってしまう。遠くの方から聞こえる電車の走行音ぐらいが通路に響く。
こんな通路に万博のキャラクター・ミャクミャクがいた。最初はホッとしたが、これが動き出したら号泣するだろうな、と思ったりもした。

通路の上部にはJR・阪神電車の福島駅が乗換駅のように掲示されているが、歩いて10分程度かかることだけは理解しておきたいところだ。
改札を出て人の少ないコンコースを進んでエスカレーターへ。そして、地上へ出ると、

天に伸びる高層ビルが。グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)が登場。
更にライトアップされた堂島大橋が目に見える。いやいや、綺麗な景色である。

向こう側にマンションが見える。これもまた綺麗な景色である。

京阪電車・中之島駅の看板が暗闇の中に浮かんでいるように見える。ここに入っていく人は・・・結構いた。

近くにはリーガロイヤルホテル大阪や住友病院などがあり、近辺でお仕事をしていたんだろうなぁという人が地下へ潜っていく。こんな日曜日に大変だなぁ・・・と思いつつ、次なる駅を目指す。
渡辺橋駅
中之島駅から900m先にある渡辺橋駅へ。

近くには阪神高速道路の中之島料金所がある。しかし、そこも車通りが少なく静寂に拍車を掛けている。

渡辺橋駅の改札へ向かうため、階段へ。別に東京や大阪の地下鉄にもこれだけ長い階段があるだろうが、どうも後ろが気になってしょうがない階段だった。

階段を降りきったB1階、まっすぐに伸びる点字ブロックの先がどうも気になる。誰かに見られているんじゃないかと思った中之島駅に続いて気味悪さを感じる

通路の先に双子が立っていて「一緒に遊びましょ」と言われたらダッシュで走るつもりだ。
改札に到着。中之島駅と同じく人の出入りは少ない。ただ、大きな違いがある。ここ渡辺橋駅は大阪メトロ・四つ橋線の肥後橋駅との乗換駅となっている。

これを撮影している最中にも1人の男性が肥後橋駅方面の通路からやってきて、改札を通っていった。なるほどねぇ、と思いつつ通りかかった男性は本当に生きている人なのだろうか?と変に疑念をもったりした。
券売機前に移動する。券売機上部には料金表が設置されているが、ホテルの最寄駅である京橋駅から渡辺橋駅まで280円だ。うん、高ぇなぁ!

理由としては、中之島線の中之島駅と渡辺橋駅を利用した場合に加算運賃の「60円」が加算される。また京阪電車では2025年10月に運賃改定を予定している。そのため、この料金表のお役は9月までということになる。
大江橋駅
次なる駅は大江橋駅。渡辺橋駅から500mしか距離はない。近すぎる。

大江橋駅の改札へ向かうと、渡辺橋駅と中之島駅と違って、天井が高くなっている。ここだけデザインが少し違う。

券売機前に行ってみれば、先程と変わらず料金表がある。ここから京橋駅に行くとするならば170円。なのに対して隣の渡辺橋駅へ行く場合はなんと230円。これは前述の通り、京阪の初乗り運賃に60円の加算運賃が掛かっているからだ。

もし、大江橋駅から渡辺橋駅・中之島駅へ行く用事があるのならば歩いたほうが財布にも健康にも良い。
さて、時刻はまもなく23時30分。最終電車の足音がまもなく聞こえてきそうなところまで来ている。

27分、42分と普通列車がやってきた後に23時57分に区間急行がやってくる。この列車が京橋・出町柳方面へ向かう最終電車だ。
もし、仮に大江橋駅で57分の区間急行を逃したらおしまい。
というわけでもないみたいで、京阪本線の最終は隣接する淀屋橋駅を0時02分に普通・萱島行が発車する。なので、猛ダッシュで淀屋橋駅へ移動して乗車したならば一応は脱出することが出来なくはない。
なにわ橋駅
大阪に来ると「なにわ」という言葉をなんやかんや目にする事がある。
「なにわ」とは大阪市の古称とされていて、大阪府の上町台地周辺を指している。らしい。らしい、である。ここは正直なところ色んな情報があり区別がつかない。
駅の名称に「なにわ」がついたのには、大阪城が近くにあるからか〜。と思っていたら、隣接する難波橋から取ったものだった。
駅の近くには大阪市中央公会堂があり、赤色のレンガがライトアップされていて非常に綺麗ではある。

なにわ橋駅は中之島線の4つ目の駅で最後の駅でもある。訪れた3つの駅と異なって、ガラス張りの入口が印象的。

近くには中之島公園があり、先端まで行けば噴水も見れるというところ。なのだが、

なにわ橋駅出入り口近くにあるバラ園にはもう少しで日付が跨ごうか、という時点でコスプレ撮影に興じる人、カップル複数組がベンチに座る、自転車で猛スピードで駆け回る人、住所が不定そうな人が自販機周辺を吟味している、などなどなんだか異空間な空間が広がっていた。
行ったとて事件的なナニカに巻き込まれることはないだろうけども、足は進まず。
なので、今回は中之島公園を訪れるのをやめた。もし、ご覧のあなたで夜中に言ってみっか!と思ったならば、ここは控えたほうが良さそうだ。行くならば昼間である。この記事の前提を全て否定することになってしまうが。
なにわ橋駅の改札前へ行ってみると、中之島駅・渡辺橋駅・大江橋駅の3つの駅とは異なって、吹き抜けの高い天井が出迎えてくれた。

しかし、この天井を見ているのは自分だけ。静かに息を吐くが誰も聞くこともない。カメラで捉えている自分を面倒だなと見る人もいない。とにかく、誰も何もない。
京阪中之島線・京橋方面の最終電車が表示されている。前述の通り、区間急行の萱島行。なにわ橋駅は23時59分、日付が変わる前に発車する。

ここで中之島行が最終なんだなぁと気づく。運用上、中之島駅に持っていくのがベストなんだろう。
改札近くのウォークインカウンターはというと、駅員さんはいない。何度も言うが、いたら怖い。

改札を抜けて階段へ向かう。急ぎ足で電車に乗ろうという人はいない。

階段脇にカバーが掛けられたものがある。

これはエスカレーターで京阪電車では利用者数が少ない駅を中心にエスカレーターの使用停止が進められているそうだ。一瞬、もったいない。と思うものの、まぁ致し方ない部分も否めないなと思わずにいられない。
終電に乗ろう
自分の人生の中で終電に乗ったことがあるのは1度だけ。
千代田線の最終電車が唯一の経験だ。その時は東京都内の駅から乗り込んでいったのだが、中はごった返していて、どこからか漂ってくる酒の匂いと加齢臭の匂いとで空間として最悪だったのを覚えている。
そんな記憶をベースに最終電車を待つわけだが、

ホームには誰もいない。自分しかいない。列車がいつ到着するんだろうとソワソワする素振りを見せる人がいない。虚しさを通り越して、怖さを感じ始める。
誰もいないホームに鳴り響く京阪電車の接近音。この接近音がホームに響いた瞬間、心臓を鷲掴みされたのではないかと思えるほど、大きな音だった。

最終電車が滑り込んできた。誰もいないホームに1人だけカメラを構えて立っている。運転手さんはさぞかし気味悪い経験をしたことだろう。
車内に入ると、これもまた想像以上に人がいる。みんなスマホを見ているから、自分が乗り込んできたとて何を気にすることもなく電車の発車を待っていた。

電車が発車して、天満橋そして京橋に到着していく。
自分はどこかホッとしていた。人がごった返すことが多い中を進んでいくと面倒だなぁと思うときが大半だったりする。だから人がいない時を狙って行動をしたりするが、流石に人の気配が全くないというのは怖いし気分が上がらない。
全てにおいて丁度いいのがベストだ。
ちなみに
随所で誰かに見られているんじゃないか。と述べたが、ここ中之島には大阪市役所があり、その市役所には、

今回の万博のキャラクター・ミャクミャクがいた。
ミャクミャク様がいることで誰かに見られているんじゃないか。と思ったのだろう。と考えるようにしておきたい。というか、そうしておきたい。
