最高気温28度の世界がスクリーンから滲み出てくる「海がきこえる」を海の日に見に行ったわけで

最高気温28度の世界がスクリーンから滲み出てくる「海がきこえる」を海の日に見に行ったわけで

2025年7月に公開された注目映画は鬼滅の刃だ。

もうすごいらしい。電車の時刻表かよってぐらいに上映本数が凄い。アニメ映画がここまで熱狂させるとは恐るべしことである。

ただ、その熱狂も良いんだけども少しばかり立ち止まって、時代を振り返っても良いかもしれない。

酷暑とは程遠い、心地よい暑さをまとった1993年公開の「海がきこえる」を見ようじゃないか。

海がきこえるとは

1993年に公開された「海がきこえる」はスタジオジブリが制作した映画、ではない。日本テレビ開局40周年番組として制作されたテレビアニメとなっている。原作著者は氷室冴子さんだ。

この作品は1993年5月5日・こどもの日に日本テレビで夕方放送された。放送時間は90分。映画だとCMは無いので時間は72分となっている。そのため映画として考えればちょいと短い作品だ。

では以下からあらすじをご覧いただきたい。

高知県に暮らす高校生の杜崎拓。2年生のある時、東京から武藤里伽子という転校生がやってくる。勉強もスポーツも万能で美人の彼女は、瞬く間に学校中で知られた存在となるが、里伽子自身は周囲になじもうとしなかった。拓の中学以来の親友である松野は里伽子にひかれていたが、拓にとっての里伽子は、松野の片思い相手という、それだけの存在だった。しかし、高校3年のハワイの修学旅行で起こったあることをきっかけに、拓は里伽子が抱えている家庭の問題を知り、それによって2人の距離は縮まっていくようにみえたが……。

映画.comより引用

海がきこえるの作品情報。上映スケジュール、声優、キャスト、あらすじ、映画レビュー、予告動画。「月刊アニメージュ」に連載された氷室冴子の小説を、「魔女の宅急便」「…
eiga.com

この作品は2011年の金曜ロードショーでも放送されているらしいのだが、放送時間が2時間枠の金曜ロードショー、流石に1本だけでは埋めきれず放送当時はゲド戦記との二本立てだったそうだ。もう一本がゲド戦記って・・・

そんな「海がきこえる」はここ最近になって、映画ファンの間で話題も話題となっている。

なんで話題になってんだろう?

さて、なぜ1993年に公開されたテレビアニメが2025年になって話題になっているのか。理由としては「海がきこえる」が公開されてから初めてとなる全国上映が行われているのだ。

国内最大級の映画・ドラマ・アニメのレビューサービス Filmarks(フィルマークス)主催のリバイバル上映プロジェクトにて、スタジオジブリの『海がきこえる』を7…
filmaga.filmarks.com

これまで「海がきこえる」はテレビ放送以外だと、一部の映画館で期間限定上映されたりしてきた。しかし、それもごく一部の映画館。それもTOHOシネマズやイオンシネマといったシネマコンプレックスでの上映ではなくミニシアターでの上映。なかなか多くの映画ファンの目に届けられるような状態ではなかった。

しかし、ここ最近になって動きが生まれた。それは映画レビューサイトのFilmarksの存在。Filmarksはここ最近、リバイバル上映・再上映プロジェクトを実行中。

『秒速5センチメートル』の「桜前線上映」など、ユニークなリバイバルの裏側を紐解く
www.cinra.net

過去には「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「海がきこえる」と同様にスタジオジブリが手掛けた「赤毛のアン」の公開もあったり。名作好きにとっては最高すぎるプロジェクトだ。

そんなFilmarksが手掛けるリバイバル上映に「海がきこえる」が選ばれた。上映規模は全国上映(2025年7月現在、山梨・島根では上映劇場なし)となって、約3週間に渡る長期間での上映。

ちなみに、もうすでにDVD/Blu-rayとなっている。

¥5,281 (2025/07/21 19:33時点 | Amazon調べ)

視聴する機会は容易にあるのだが、やはり映画上映というのは特別だ。元から名作として名が高かった「海がきこえる」のファンがもう歓喜の声を上げ、一気に映画ファンの間で話題となったのだ。

1回ね、観に行ったんです

自分はというと、この話題を知るまで「海がきこえる」をあまり知っていなかった。まぁなんかそういう作品があるらしいぐらいだった。ただそんなに話題になっているなら見てみたい気持ちが強まった。

ということで一度観に行ってみた。日付は7月5日だった。上映時刻はというと18時ちょうど。何気なく行ってみると、座席はほぼ満席。あれま、すごい。人気映画の続編レベルという賑わいだった。

お客さんの年齢層というのも凄い振れ幅。10代ぐらいの人がいたと思えば、老夫婦が並んで席に座っていたりと。いやいや、そんなにみんな楽しみにしていたんですか?と思わずにはいられない。

そして感想はというと、すごく良かった(語彙力なし)。びっくりした。こんなに良い作品だとは思わなんだ。

当日の余韻は時間が経っても消えていかない。いやいや、もう一度みたいなぁ・・・とここ最近になって思い始めた。そんなところに7月21日・海の日にはなんと入場者限定プレゼント・クリアポストカードが貰えるらしい。

株式会社つみきのプレスリリース(2025年6月4日 12時00分)【「海の日(7月21日)」上映限定の入場者プレゼント発表!】『海がきこえる』7月4日(金)より…
prtimes.jp

うーん。

行くしかねぇか!

ということで、7月21日に再度見に行くことにした。

酷暑の柏へ舞い降りて

千葉県の柏市の柏駅直通の映画館「キネマ旬報シアター」へやってきた。キネマ旬報シアターは映画雑誌・キネマ旬報が運営するミニシアター。

千葉県柏市にある映画館、キネマ旬報シアターの公式HPです。ロードショーの終わった新作や過去の名作を上映しています。柏駅西口徒歩1分!柏髙島屋ステーションモールと…
kinejun-theater.com

JR・東武線の駅から歩いてすぐの高島屋の中という好立地。今回はここで鑑賞することに。なぜこの映画館なのか?柏駅周辺だとつくばエクスプレス線の柏の葉キャンパス駅近くにあるMOVIX 柏の葉でも上映をしている。

高島屋の外れの方にありましてね

しかし、今回は敢えてそこをずらした。理由は鬼滅が上映されていて、映画館内がとんでもねぇ混雑になってるからだろう・・・と思ったからだ。私は人混みが嫌いだからね・・・

そして当日。キネマ旬報シアター中へ入りますと、

明日から平日だというのに・・・

とんでもねぇ人・人・人。

過去、キネマ旬報シアターには何度か足を運んだことがある。お盆休み時期に行ったこともあった。

降って湧いたかのような再上映 映画館には毎月必ず行く。 大型作品や注目されている映画となれば、必ず近所の映画館に行ってはおもしろいなぁと感動するのだ。 18歳ま…
note.com

それでもここまで人がごった返すような状況だったことはない。「海がきこえる」の影響力の強さ、名作であることを思い知らされる。

上映開始は14時45分。スクリーンは「2」であるが、開始5分前から長蛇の列。いやいやすげぇな・・・と再度思ってしまう。

スクリーン内の座席は、これまた満席状態。前回の鑑賞時と同様に若い人からご老人まで様々。みんな、静かに上映開始を待っていた。

感想

では、ここから「海がきこえる」の感想と行こうじゃないか。

最初の場面は東京の吉祥寺駅から。主人公である杜崎はJR中央・総武各駅停車の2番線ホームで電車を待っている。そうしたら向こうのホーム、JR中央快速線の3番線に見知る人あり。というところから物語が始まっていく。

JR東日本・吉祥寺駅の構内図ページより引用

端的な感想として、映像から滲み出てくる夏の雰囲気が心地よすぎる。

今では酷暑だ!熱帯夜だ!という文字が夏になれば確実に踊りまくり、外に出て夏を楽しむというよりも、如何にして夏を乗り切るか・・・という考えになっている自分からすれば、海がきこえるが放つ「夏の空気」は懐かしくて、それを手放したくないと思わせてくれる。いやいや、身体に染み込んできてしょうがない。

学校内での会話、自宅での食事だって。エアコンが作りだす冷気なんて1つもない。どのシーンも最高気温28度以下の世界。もうたまらない。

舞台が直ぐに東京から高知へ移った後も、全く暑苦しさを感じさせないし、どこか遠くへ行ってしまった平成の空気感というのをまるで密閉容器に入れていたのか?というほどに眼前へ曝け出してくれる。

商店街での会話、立ち読みする人、地方都市でありながらどこか活気があって。ああ、平成初期の雰囲気はこんな風だったんだ・・・とジンワリと心に染み込ませる。

音楽もそうだ。一つ一つの登場人物の心の機微を補完するような、浮ついているのか落ち着きがないのか。10代が終わりかけている青年たちにマッチする音楽が70分近く盛り込まれている。

ちなみにサウンドトラックが各種サイトで配信中だ。自宅で聞いてみると、過去にあったのか無かったのか不明瞭な青春時代を思い出せてくれるし、泣きそうになるのでお聞きになってみるのもよろしいだろう。

ストーリーに注目すると、上映時間が70分であることを考慮するとかなり端折っているかな・・・?と思うのは否めない。感情ジェットコースターかよっ!とツッコミたくはなる。

特にヒロインである武藤の性格を表現するべく、色々まぁ普通ならブチギレられてしまいそうなことが連発する。そ、そんなにワガママを連発できますかねぇ!それで良いのか杜崎ぃ!とイラッとする人は一定数いるかもしれない。

ただまぁ、元々はテレビアニメとしての制作だ。そこら辺の制約があったことは考慮すべきだろう。

逆に視点を変えて捉えるならば、10代後半の気持ちって、それだけ情緒不安定なものだった。ということなのかもしれない。

1つ1つの出来事がまるで自分の人生での大きな出来事と思った10代。

家族関係で発生した問題への無力さ、友人関係の難しさ、恋愛で発生する歪・・・確かに正解が無い分それぞれの物事に真剣に向かっていったような、そんな気もする。

まぁただ、友人から数万円もせびり取ることは流石にしなかったけどね・・・

作品後半、主人公たちは同窓会に出席し、夜の高知市内を闊歩する。このシーンだけで大人になったことを暗に提示してきていて、更にライトアップされた高知城を見上げてる。この瞬間に「ああ、もう彼らにとって学生時代の出来事は良き過去になっているんだなぁ」と心の中心からジーンと熱くさせてくれる。

そして最後のシーンで、

ダァっ!!!!!!

武藤ぉ!お前って奴は・・・・嗚呼ぁっ!

と思うわけだ。いや、まぁネタバレになるんでこう表現するしかないんだ・・・

ちなみに、杜崎が向こうのホームへ行く際に使った階段は吉祥寺駅の東口らしい。

あなたもご覧になってくださいな

ということで、リバイバル上映されている「海がきこえる」のご紹介と感想であった。

いやいや素晴らしい作品であり、居心地の良い1990年代を代表する青春作品だ。

さてリバイバル上映でありながらも「海がきこえる」の復刻版パンフレットが売ってあるらしい。これは買わねば!

いやいや残念である。キネマ旬報シアターでも購入ができなかった。あまりの人気の高さで全国各地で売り切れが続出中。Filmarksは受注生産をこれから受け付けるそうだ。

自分は購入することを密かに思っている。「海がきこえる」の放つ空気と温度を忘れたくはないのでね。