移動にはスピードが求められて、途中の景色なんてまるで紙に書かれただけの絵のようにビュンと過ぎ去ってしまう。
でも、そんな景色の中に気になるものがある。東海道新幹線から見える浜名湖の途中にある駅が。
その駅の名は「弁天島」だ。そこから何が見えるっていうのさ。自分に何を与えてくれるっていうのさ。
在来線の旅・最後は「ビュンと過ぎ去る駅」にしたい
2025年8月上旬、私は東京から東海道新幹線に乗り込んで、乗車すると購入できるという不思議なお得なきっぷ「夏の乗り放題きっぷ」を手に入れた。
それを使って、普段は降りること以前に存在をも気にかけないような駅で途中下車することを繰り返した。
そんな無駄を削っていくのだ命題な現代社会で「敢えて途中下車する旅」もいよいよラストである。
最後に相応しい駅は一体どこかしら。そんなことを思いつつ、東海道線の要所である豊橋駅をも超えてしまった。東海道新幹線に乗り込む予定の駅・浜松駅にジリジリと近づいていく。
Googleマップとにらめっこを続けていると、地図の多くが薄い水色に染まった。浜名湖だ。
5月に浜松から静岡県の北へ向かい天竜浜名湖鉄道を利用した際に見かけた浜名湖だ。そんな浜名湖の脇をすり抜けようとする東海道線。その途中の駅で私は興味を惹かれた。
浜名湖の端部分に位置し、まるで水中に浮かんでいるような駅「弁天島駅」である。
弁天島駅の存在は知っていた。東海道新幹線で何度も浜名湖を勢いよく通り抜ける時に小さな駅があることを目視していた。しかし、その駅は東海道新幹線のスピードの元では「変哲もない景色」に成り下がってしまう。
そんな駅で一度は降りてみたい。周辺はどうなっているのか気になるなぁ。と東海道新幹線の車内で思ったものだ。
電車は考える余裕すら与えず容赦なく浜名湖の横を進む。
しょうがねぇ。ここで途中下車を決め込むか。豊橋〜浜松間はクロスシート運用が多い。今回も例外無くクロスシートだった。それでも興味が勝ってしまい、クロスシートに座る権利を捨てた。
電車はゆっくりと弁天島駅へ。そして、扉が開いた瞬間に浜名湖の風と暑さが車内へ滑り込んできた。
駅は喧騒なんて知らんのだよ
8月4日。月曜日。折角訪れた週末があっという間に吹っ飛んで、また憂鬱な一週間の始め。そんな空気がどことなく名古屋駅で広がっていたが、

この駅はそんなのも関係なく、我が道を往くように静かな空気に包まれていた。
電車を降りたのは自分を含めると4人ほど。一人淋しく写真をパシャパシャと取り続けていると気づけばみんなどこかへ。

ホームに残っているのは必然のように自分だけ。

JR東海の駅ではたま~に名所案内が掲示されている事がある。前述の東田子の浦駅や由比駅でもそう。ここ弁天島駅でもそうだ。近くに浜名湖があるので掲示されていない方がおかしいのかもしれない。

駅に設置している時刻表の横。そこには東京や横浜などのSuicaエリアからやってきた人向けの案内が。

交通系ICカードは各エリアごとで利用を完結させる必要がある。Suica・PASMOエリアで入ったらそれ以外のエリアへ超えて入ることはできない。
JR東海のエリア・TOICAエリアも同様で弁天島からJR東日本やJR西日本の各駅へ行くことは出来ないのだ。この案内は東京と大阪の中間に位置するという特色からかJR東海の各駅に意外と貼ってあったりする。というか、鈍行でやってくる人がなんやかんやいることの裏返しなのだろうか。
改札へ

弁天島駅の改札は1箇所。花火大会が開催されるなどの場合は臨時改札も出来るそうだが、この日は全く普通の平日だ。改札は誰かが通るのを待っているだけ。

改札の真横には係員さんのいる窓口が設置されているが、

到着した時刻は不在のようだ。JR東海の規模が小さい駅では無人駅化が進んでいたり、改札業務が縮小されている。この駅もJR東海交通事業というJR東海の子会社に改札業務が委託されている。いつかここも無人駅になるのだろうか・・・?
運賃表を眺めていると東海道線以西方面では名古屋までしか書かれていないことに気づく。もうそこら辺の人たちは三重とかに行っちゃうよね、なんてデータもあるのだろうか?

反対に浜松を超えた方面は静岡周辺の駅までは書かれている。熱海もまたJR東海のエリアではあるが、これまたそこら辺の人はこねぇよ!というデータがあるのだろうか。
券売機近くの案内に豊橋駅を利用している人向けの案内が連なっている。豊橋から来てますよね!という圧を感じる。実際、自分も豊橋から来ているから広告のターゲットはずばり当たってはいる。

痴漢・盗撮防止ポスターが。いや、警察官のキャラが濃すぎるだろ。

待合スペースが駅の改札近くに用意されている。次の電車は10分以上やってこない。

それも相まって改札周辺、駅構内。自分以外に誰もいない。ホームの末端まで自分の目で見ることが出来るが寂しさを感じざるを得ない。でも、人がいつも駅にいるという状況は東京近郊や京阪神とか、それこそ名古屋とか。都心部じゃないとあり得ない。
改札を抜けると真正面すぐに階段がある。浜名湖弁天島温泉へようこそ。初めて知っただよ。

こういう何気ない暗さが子供の頃は怖かったりするし記憶に刻まれてしまう。でも、大人になってこういう景色に気持ちも足も止めることは減ってきた。

ちょっとしたトンネルから強い風がすり抜けてくる。海が近いねぇ、こりゃ。
海って良いっすねぇ

弁天島駅は高架駅だ。改札を抜けて階段を降り、そしてトンネルを抜けると国道301号線が現れる。そして海に行きたい場合は地下通路を使って向かうことになる。


地下通路を抜けると駅の全身を捉えることができる。ホームに立っていると規模がでかいなぁと思っていたが、遠目から見ると意外と質素な作り。

地下通路の出入り口の近くを数歩。歩くと、見えてきた。海の上に浮かぶ鳥居が。

弁天島駅からすぐの所に海水浴場などが整備されている「弁天島海浜公園」がある。海浜公園からは弁天島や太平洋を一望できる。その海の中央に先程の鳥居が鎮座している。
この鳥居はGoogle大先生によれば「水面に浮かぶ鳥居が神聖な場所の境界(結界)を示している」という。またこの鳥居は高さが18メートルもあるそうだ。そりゃあ海から抜き出ているように見えるよなぁと感心する。
この日の海はこんな感じ。

少し緑掛かっていた。弁天島が普段はどんな色合いなのか全くわからないけども、海を感じるだけでも楽しいねぇと単純な自分は思う。

海浜公園から見える景色は素朴なものかもしれない。でも、鳥居がどこか非日常感を演出して、東京や名古屋で感じた蒸し暑さは海からやってくる風が吹き飛ばしていく。

ただこの日は31度。暑いのには変わりない。Googleマップの口コミによれば冬時期であれば鳥居の間に夕焼けを入れた状態で撮影出来る。というものもあった。冬のほうが気楽だし、そっちの方が良かったなぁと思わずにいられない。

周辺
海浜公園近くには昔ながらの宿泊施設がある。浜名湖の一部はリゾート開発が進んでいるのと比べると時代に置き去り感はある。

では弁天島駅周辺はどないなんだい?となるが、ごらんの写真では団体旅行が盛んだった時期に建てられたようなホテル。そして新し目のホテルが立っていたりする。逆にそれ以外にはない。宿泊客はすぐに海へアクセスできますよ!という案内を見受けたが、夏休み期間、どれだけの人が泊まったのか。気になるところだ。

そんな中で弁天島駅すぐの所には高層マンションが立っている。駅徒歩5分も掛からないレベルだ。浜松も豊橋も通勤圏内で足を伸ばせば名古屋も一応は通勤圏内だ。人生も佳境になった時にはここに住めたら楽しいのかもしれない。
海水浴場として更には遊覧船も用意されている海浜公園だが、当日はいくら夏休みといえど人はまばら。更に空からは容赦なく太陽光が注がれて肌が痛むほど。

ある程度撮影したし、駅に戻るか・・・と思って海浜公園を出ようとすると、

「コーラ」とテープで書かれた自動販売機を見つける。実際にコーラは発売していた。お値段は190円也。装飾とかそういうのではない、ただ純粋な表現がそこにあった。

駅に戻り・・・感じる
次の電車が近づいている。弁天島駅へ戻る。

臨時改札口となる階段は格子で閉じられていた。

階段を上がろうかという所でこんなポスターが。ドキッとした。

内容は駅構内での撮影マナーについて。これは自分もしっかりしていかないとだめな部分だ。おもしれぇ〜では済まさないようのしたいところだ。

駅の改札を通り、ホームの中央に設置されているベンチに座り込む。これから浜松方面の電車が5分後にやってくる。
そんな弁天島駅をものすごいスピードで駆け抜けていくやつがいる。東海道新幹線だ。

東海道新幹線に乗っていれば景色が一瞬にして過ぎ去っていく弁天島駅。逆にこういう駅から東海道新幹線を眺めていると、まぁ速い。しかし東海道新幹線も儚いものに感じる。16両にも上る長い電車が、そして様々な人があの中にいるというのに、誰とも触れ合うことはない。

自分を浜松駅へ連れて行ってくれるオレンジの憎いやつがやってきた。

ということで、これにてJR東海在来線の旅もこれにて終了。目的地だけでなく、その道中にある物・景色を可能なら全て見届けたい。でも、それは人生の中でも難しい話だ。だから掻い摘む程度で良いから、それを続けていきたいもんだね。
ちなみにこの記事で当サイト100記事となりました。
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誰かに届いていると信じて、そう思わないとやってらんねぇ。というマインドでまた記事を作っていこうと思います。