ロックンロール!!!!!!
いつの間にか滑り込んで
自分が好きになったアーティストは様々な「明確なきっかけ」というのがある。「ヒットしていた曲を聞いて」とか「おすすめされて」とかで、つまり自発的行動で得るものばかりだ。
ただbetcover!!は少し志向が異なっていた。自分がbetcover!!を知ったのはYoutubeのミックスリスト機能だ。しかもいつの間にか滑り込まれていた。
本を読んだり、ゲームをしたり、集中をするときなどでYoutubeのミュージックビデオを垂れ流しにすることがたまにある。そこには色んなアーティストが入り混じっていて、どれもこれも聞いたことのある曲ばかりだ。
しかし、何度も左から右へ受け流している時に妙に耳に残った。画面に目を移すしても知らないアーティスト。別に大ヒットしているわけでもない楽曲だったが、ただ耳に居心地良く音が残っていた。そのままミュージックビデオを見つめた。
その曲はbetcover!!の「COSMO」だった。
イントロの優しくギターの弦を触れるような音からどこか気だるく歌う声、心地よい重低音のベースに思わず体を揺らしていまいそうなドラム・・・
あー、、、、なんだこりゃ・・・
妙に中毒性があり、一度聞くと「こりゃたまらんわ」とまたリピート再生する。何度も何度も聞いていると、これはヤバい!とんでもない曲を知ってしまった!と興奮する。
「この曲は最近出た曲なのかなぁ?」と概要欄を覗き込むと、投稿日は2017年12月19日。
もう数年前の曲。こんな曲を知らないままでいた自分と、そんな曲を自分の中に滑り込めたYouTubeに驚いた。
なんだか居心地が良い
betcover!!は主宰(という表現が正しいかわからないけど)の柳瀬二郎が中心となったプロジェクトで2015年頃から活動を開始。自分が知った時点ではメジャーデビューをしながらも一度インディーズに戻り、すでに多くの人たちに評価されていた。
気になると色んな楽曲を聞いてみたくなるもので、加入しているSpotifyですぐさまに検索を掛けた。
当時の人気曲ランキングでは1位に「狐」が堂々と鎮座していた。
囁かれるようなイントロに独特な歌詞にノイジーなギター・ドラムに・・・テレビやインターネット上で輝く有名バンドとは向いている方向が違う音楽性。
次いで「幽霊」が2位。「狐」と同じアルバム「時間」にある楽曲だ。
落ち着いた声としっとりとした音、と思えば癇癪を起こしたかのような叫び。感情の起伏がそのまま音になってしまったような。この曲もどこかチャレンジングな感じして。
そして「バーチャルセックス」が続く。
馬鹿野郎と叫ばれたと思えば、雑踏の中を一目気にせずに一目散に足と手を大きく振って走り出すような曲。止められない感情に思わず体が突き動かされているような・・・
ハハッ、なんじゃこりゃ・・・連続で聞いて、これまいった。と思ってしまった。
テレビやインターネット上で輝くバンドや人気アーティスト達とは違って、世間全体が聞きたい曲ではないもの、いつかこういう曲が聞いてみたいな、奏でてくれないかなと思うような。そんな贅沢極まりない思いと感情的な隙間を見事に突いてくれている。いや、ちょっと自分に酔いすぎか・・・でも当時はそんな事を思ってしまったし、見事なまでに取り込まれた。
海豚少年が好きでしてね
この記事を作るうえで自分が一番好きな楽曲ってなんだろう?と考えると、一も二もなく「海豚少年」が1番好きだと改めて思った。
見たことのない世界へ連れて行ってくれそうな楽曲が入り混じるbetcover!!の中では「海豚少年」というのは小説のように人間の感情のある歌詞でもないし、愚直で捻りもないような曲に聞こえるかもしれない。
けども、この曲はなんだか語彙力が皆無でクサイ言葉になってしまうが「突き動かしてくれるような」感じがスゴく良いんだ。
この曲を聞いた時、ちょいとばかりメンタルブレイク時期だったこともあり、海豚少年を聞いた時に背中を強くドンッ!と突き飛ばされたような感覚があった。手じゃなくて足で蹴られたような。
無条件に頑張れというわけでもなく、笑顔を無駄に振りまくような曲とは異なって、なんだか1人ポツンと淋しく立っていて、どこか虚しさを否めないのに「いつもどおりなんとかなるさ」と諦念の感情を抱いてまた歩き出す感じ。
あと、ライブバージョンの海豚少年もすごく好きだ。音源にある焦燥感に加えて、成熟した人間の美しさ。いやぁ・・・言葉に出来ない自分が悔しいけど、言葉に出来ない魅力がそこにある。
なんかもう、とにかく全部良いので素人の文章なんか眺めてないですぐに聞いて下さい。わかってるはずなのに。
ライブに行かねば
そんなbetcover!!を知った自分はアルバムやライブ音源に公式で配信されているライブ映像を通して聞きまくっているというのに、一度もライブに行ったことは無かった。
単純にライブに行きたいとは思っていても中々に予定が合わなかったし、ロックバンドのライブというのはなんか怖そうで一度も行ったことはない。足が向かなかったというのもある。
そんなこんなで色々と行く機会を伺っては立ち消えになって・・・を繰り返している最中、6月ごろにワールドツアーをやると見つける。
betcover!!がアジア、ヨーロッパ、日本巡るワールドツアー決定https://t.co/UCs9rDmm9t#betcover pic.twitter.com/He4vgoSGR7
— 音楽ナタリー (@natalie_mu) May 8, 2025
日本だけでなく中国の各都市や香港、ヨーロッパでもやる。うわ、なんか知らないうちにbetcover!!のライブ規模がデカくなってないか・・・?と思いつつ、まぁ見に行けたら観に行くか!そうしたら東京公演にでも行くか!と呑気に考えていた。
しかし、ワールドツアーが始まって世界各国での映像を見ていると、観客の熱気が狂気の沙汰ではないほどに強まっているではないか。それが1公演どころじゃない。別の公演でも同じ。
これはマズイ・・・。うつつを抜かしていると気楽に見られるようなバンドじゃなくなる・・・!と真剣に思うようになった。
7月上旬。まだまだ9月の予定なんてわかりきっていないのに、焦燥感に駆られてイープラスで東京公演のチケットを購入した。
でも今になっては、この行動に間違いは無かったと断言できる。
お台場へ
東京公演はお台場にあるダイバーシティ東京の「Zeppダイバーシティ東京」だ。

開場時刻は18時。その時刻の15分前に到着したが、Zepp側の入口近くには普段からロックバンドを聴き漁っているんだろうなぁという人が多く集まっていて、開場と開演を今か今かと待ち望んでいた。

自分の整理番号は1200を超えていた。1000人超えとはすごい人数だ・・・と思っていたがZeppダイバーシティ東京の収容人数は2400人を超えているそうで、1500番以降の待ちスペースには人がまだまだ居る。これを見ただけでファンの多さを実感する。
18時40分頃にやっと会場内へ。人生で初めてZeppへやってきた。妙に浮足立っているし、これから始まるライブへの期待感からか緊張感もある。自分が出る訳じゃないのに。

ステージ向かって右側の手すりがある場所に陣取った。会場内を俯瞰で見られる場所だった。また俯瞰で見ていると、1000人以上が入った会場内では様々な人を見受けた。仕事帰りなのかワイシャツとスラックス姿の男性に私はパーリーピーポーです。というオーラを纏った人もいる。そんな会場内、女性も多いなという印象を受けた。
ライブに行き慣れていそうな人、もの静かそうな人・・・こういう人たちが普段から聞いているのか。と変な発見をする。
自分の前に立っていた女性は片手にサントリー生ビール350ml缶を持ち、もう片手でスマホを操作するという玄人感満載の人。
ライブの開演時刻である19時が差し迫った時、女性は缶ビールを口に加え、上を向く。ゴクゴクと飲み続け口から缶を離す。すると「フッ」と息を吐き、片手で缶をベコベコに潰した。
カッコ良すぎるだろ。
期待感とレッドブルが放つ砂糖を煮立たせたような匂いとソワソワ感と。様々な感情が入り混じる会場内。いよいよライブが始まる。
開演
会場内に出囃子が流れる。アニメ・マッハGoGoGoのオープニングテーマ「マッハゴー・ゴー・ゴー」だった。
なぜこの音楽なのだろうか?という疑問はさておいて、映画館のスクリーンを前にして盛大なストーリーのスタートを思わせる感じがたまならかった。ただのライブではなく、演出にもギミックがあるんだと思わせる。
1発目はワールドツアーが始まる前に予告無く公開されたアルバム「勇気」の「忘れる女」
新曲であり、ライブバージョンで聞くのは初めてだったのに「これが1発目!」と興奮を抑えられなかった。「君が密売人だったから」「君は優しい友達だから」とステージ上で歌い上げられると自分も思わず口ずさんでいた。

続いて「ゴーゴースチーム」では観客の多くがゴーゴーと叫んで、ハハッと思わず笑う。なんだこの一体感。
そう思っていると「馬鹿野郎!」と叫んでいる。「バーチャルセックス」だ。銃で腹を撃たれていることにも気づかず、その場で立ち尽くしてしまったような、あまりにもシームレスに音楽が移りゆく。笑みがまた止まらない。
なんだこのライブ。息をつく暇なくハイカロリーな音楽が轟いてくる。まだ前半だというのに。
重みのある曲が続く中で「海豚少年」が流れた。自分が好きでたまらない楽曲が目の前で演奏されている。耳に入ったと同時に体の奥から経験したことのない感情が吹き出して、視界がぐらりと歪みそうになる。
「いつもどおりなんとかなるさ」と歌っている姿。この曲でメンタルブレイクを乗り切ったわけで、みんなが縦揺れ横揺れしている中で自分はじっと前を見つめ曲を聞いた。周りのお客さんからしてみれば「さっきまで音楽にノッていたのに急にどうした・・・?」と思われるほどにじっと聞いた。
今回のライブで個人的には一番のハイライトだったと断言できる。
人間のディープゾーン突入!という感じで「超人」へ。
元から9分も超える楽曲で、ライブでは10分以上の演奏になる。今回もアレンジが加えられ、長い時間の演奏となったが、人間の喜怒哀楽や負の感情に絶望感をすべてごちゃ混ぜに詰め込まれたような。
さっきまで会場内は沸騰したような空気だったのに、一気に静寂に包まれてしまった。本当にとんでもないライブだ。

感情の起伏を音にしてしまったような、そんなライブも後半。「異星人」が流れる。演奏もそうだが、演出も驚くようなものだった。

会場上の中央付近にミラーボールがあり、一気に会場内を輝かせた。それはもう心許なく宇宙で輝く星星と果てなく広がる漆黒の宇宙を再現したようだった。
曲も演奏も演出も、それに魅了された観客の発する空気も全てが異次元。思い出しながらこの記事を書いているが、この光景の中に自分もいたと思うと信じられない気分になる。
MCもなく、最終盤。「ミー子のコンサート」
「本当にありがとうありがとうありがとう」と歌い上げるものにはバンドとしての感情もあるだろうし、「お前のやりたいようにすればいい」というのも彼らなりのメッセージなんだろうなぁと笑みを浮かべながら聞く。
曲も終わり。いいライブだった・・・ライブの残り香に耽ろうか・・・と思っていると「もう1回!」と叫ばれ、高速版が流れる。もう一回遊べるドン!と太鼓の達人的なヤツが繰り広げられるとは思わなかった。
バンドメンバーがいなくなった後、最後に1人残って「ステイウィズミー」を弾き語る。ジェットコースターのように様々な曲が轟いたライブの最後、優しく弾かれるギターの音はスッと体に染み込んできた。
バイバイ!と叫ばれステージからいなくなった時、一気に体の重みを感じた。ズルズルと足を引っ張るようにそのままZeppダイバーシティ東京を飛び出した。
本当にとんでもない
ライブの完成度がすごい!という感想をSNS上で観ることが多々あった。しかもその感想を述べているのは同じプロのミュージシャンだった。
そんな、プロまでをも感嘆とさせるライブというのは一体どんなものなのか?気になってしょうがなかった。
自分は音楽の演奏方法も技術面については全くもって知らない。ただ、途中途中で音がぶつかってくるような感覚があった。しかも塊で。

これは映像や音源では体験できないものだ。更には重低音が足元から伝ってきて身体全体を揺らす。それでも躊躇いなく無音状態しても、音の1つ1つにブレがない。それを見ていた観客は拍手など喝采として呼応する。
だからライブの完成度が高いと言われるのかなぁ・・・と素人ながらに思うのであった。
体の重みを感じながらりんかい線の東京テレポート駅を目指す。楽しい、感動。そんな陳腐な感想が浮かんでしまう。

ただ1つ思うところがある。今回のライブで支払ったチケット代についてだ。
お値段は一般「5500円」である。おかしい。おかしいって。なぜ、あれだけ完成度の高いライブが1万円もしないんだ・・・
何もかも「とんでもない」ライブだった。快感に近い感情を携えて、お台場の中心でそんなことを思ってしまった。