憧れというのは儚く脆くも時代の風に吹き飛ばされて、一生自分の前には戻ってこないものだ。
デパートという概念が薄れゆく中、憧れだったあの「デパートの食堂」をまるでそっくりそのまま遺したようなレストランがあるらしいじゃねぇか・・・
岩手県の花巻市にな!
目次
頭の中の片隅に残る「デパートの食堂」
長年生きてしまうと「果たしてこれは自分が経験した・目撃した記憶なのだろうか?」と疑問に思う記憶というのがある。
その記憶たちの中に「デパートの上階にある食堂に行った」という記憶があるのだ。
その記憶には訪れたことのあるデパートの名前がナゼか明確に判明している。それは秋田県大館市にあった「正札竹村」というデパート・百貨店だ。大館市の中心部・大町にあった正札竹村は2001年頃に閉店し、とっくに歴史の星屑と化してしまった。
自分は18歳で東京に飛び出すまで秋田県大館市で生活してきたこともあり、正札竹村の存在は知っている。しかし、2001年頃に閉店したということもあって店内に入った記憶というのがあまりない。のだが、親に連れられて正札竹村の店内を歩いて、店内の食堂というかレストランで食事をしたような・・・そんな記憶がある。もしかしたら記憶違いの可能性もあるのだけども。
そんな記憶が最近になってぶり返した。きっかけは秋田にある休業中だけど人の気配がするという不思議な百貨店「木内百貨店/木内デパート」についての記事を作成・投稿した時のことだ。
この記事を作成するにあたって少しばかり裏話がある。それは私の祖母が20代の時に木内でアルバイトとして働いたことがあった。というのだ。
当時の木内は3階まで営業しており、屋上には遊園地もあったというのだ。そんな3階には食堂(レストランともいえる)があり、そこでアイスクリームを食べるのが好きだった・・・という。
はぁ・・・なんたる輝かしい綺麗な時代のお話・・・
確かに自分の記憶の通りならば独特な空気が広がる空間だったなぁ・・・と思う。ファミレスとかにはないどこか上品というか落ち着いた空気があって特別感が溢れるレストランと言うか食堂。そういう食堂に行ってみたいもんだなぁ。と思っていると、とあることに気付いた。
最近、デパート・百貨店で如何にもなレストラン・食堂って見当たらなくなったよな・・・ということに。
デパートのレストラン・食堂が消えかかっている
今でこそ、百貨店・デパートの立場というのは様々な業態の普及・インターネット販売の影響を受けて閉店や合併などを繰り返す不安定な業態のように見える。
ただ1960年代頃から始まった高度経済成長期の百貨店・デパートというのは人々の憧れ的な存在であり、おめかしをして訪れるような代物だった。
そしてその中には「食堂」があった。
阪急百貨店うめだ本店ではライスカレーが安価で提供され大人気になったり、お子様ランチの発祥は日本橋三越であったりと今でこそ当たり前となった食文化を生み出した時代のゲームチェンジャーでもあった。
そんな百貨店・デパートの食堂がほぼ消えかかっている。東京都内には星の数ほどに百貨店があるが、どこにも食堂というのは無く、日本橋三越に「特別食堂」という形で残っているぐらいじゃないだろうか。
地方で踏ん張っている百貨店にあるかどうか?というレベルらしい。
自分の記憶にあるもの、祖母がよく行った食堂というものを現代で楽しむのは、些か厳しいようだ。
と思っていると、Google大先生はとある地域に行くのを勧めてきた。それが岩手県花巻市だった。そしてお店の名前は「マルカンビル大食堂」だ。
そこには想像する如何にもな百貨店・デパートの食堂があるそうだ。いわゆる「昭和レトロ」の空気が満載で、そしてなんかめっっっっちゃ賑わっていて、すんんんんごいアイスクリームもあるらしい。
おっとぉ・・・・行きたいが岩手県ですか・・・遠いですねぇ・・・
と思っていたが、8月下旬に実家のある秋田へ帰省することになっている・・・・あっれれれぇ〜おかしいぞぉ〜
行ったのか行っていないのかあやふやな記憶である「デパートの食堂」をこの目でこの体で体験・食事をする大チャンスがやってきた。
これは行くしかあるまい!
マルカンビル大食堂へ行こう
今回の目的地である「マルカンビル大食堂」は花巻市内中心部にあり、JR東日本の花巻駅からは歩いて1.2km、時間にして約15分ほどの場所に位置している。
というわけで、秋田に帰省したのを上手く利用して秋田市から岩手県花巻市へ向かった。秋田から岩手って隣同士だから移動は楽でいいねぇ〜と思っているかたがいらっしゃったら、それは大きな間違いであると断言しておきたい。
秋田市中心部から岩手県花巻市まで距離にして120km以上も走破する必要がある。全く持って近くない。いやいや運転は大変である。まぁ、自分じゃなくて家族が運転したんですけどね。
マルカンとはなんざいな?
マルカンビル大食堂というが「マルカン」って何だろうか?
花巻市内でスーパーマーケットなどを展開する企業「マルカン」。今回向かうマルカンビルには、マルカンが運営する百貨店、マルカン百貨店・通称マルカンデパートが入居していた。今回のテーマである「食堂」も6階で営業していたのだ。
マルカンデパートは花巻市内の中心部にあることから多くの人に愛されていたものの、建物の改修工事に係る費用が嵩むなどの理由により2016年に惜しまれながらも閉店。
そんなマルカンデパートの6階にあった「大食堂」は食堂存続の声が多数上がり、それを受けて地元企業である「上町家守舎」が運営の引き継ぎ・再開に乗り出し、2017年2月に見事に再開。
マルカンビル大食堂が放つ昭和時代の空気感と提供される料理がSNSを中心に人気になり・・・という流れがある。
実際に行くと・・・
訪れた日は日曜日の11時30分頃。マルカンビル周辺に行くと、こういうと失礼かもしれないが花巻市中心部には人の気配があまりなかった。
アーケードが掛かっているエリアに差し掛かっても、歩いている人はチラホラと見かけるだけ。ネット上の評判で見かけた「混雑」「すごい人」という言葉の信憑性が薄れていく。
のだが、マルカンビル近くにあった提携駐車場の全てが「満」という文字。そう駐車場の殆どが埋まっているのだ。
これは一体・・・?空いている場所を探しに更に移動しても「満」「満」「満」という文字。更に更に移動しても「満」「満」満足一本満足状態である(?)。
やっとこさ空いている駐車場を見つけ駐車。もし、車で行かれる方はお昼時などの駐車場には要注意していただきたい。結構、違法駐車する人もいるようで「ここはマルカンデパートの駐車場ではありません」という但し書きがなされているところもあったので要注意である。
マルカンビルへ進入するでよ・・・
ということで到着。これがマルカンビルである。

花巻市内で市民の皆さんに長年愛されてきた「マルカンデパート」の姿を拝むことが出来た。平屋のお店が並ぶ中心地にマルカンビルの姿はあまりもデカく見える。
マルカンビルへ近づいていくと1階部分では雑貨類が発売されていた。それらをよーく見るとマルカンデパート関連のグッズがチラホラと発売中だった。
さて、そんなマルカンデパートの1階部分。外には人の気配というものがあまりなかったわけだが、なんとめちゃくちゃにいた。えっ!どこから湧いて出てきた?!スポーン地点でも設定されてんのか?!というぐらいにめっっっっちゃ人がいた。多分多くの人がビックリするほどである。
そして、その人の流れは当然上階部へ。食堂は6階にあるというので、自分たちもそのままエレベーターへ。
ギュウギュウという寿司詰め状態で上に上がり、扉が開くとそこにはズラリと並んだ人の列。とんでもねぇ行列であった。
メニューを見遣る
マルカンビル大食堂へ入るための行列はなんと食堂入口からズラリと階段の方へ伸びていき、とうとう5階部分(2025年9月現在閉鎖中)の踊り場まで到達していた。いやいやすごい人である。
そんな行列が出来ることを見越してか、壁にはマルカンデパートの思い出が掲出されていた。

やはり地元に特化した百貨店というのは暖かみがあり魅力的である。
列が進んで6階部分に舞い戻るとメニュー表が大きく張り出されていた。みんなこれを見ながら、どれにするか悩んでいる。自分も同様に見ていくと魅力的な商品が多数あることに気付いた。

完全に個人的な印象なのだが、こういう「なんでもござれ!」的な食堂ってなんでも美味いよね?という印象がある。どれを食べようか・・・悩みどころだ。

しかも、マルカンビル大食堂の多くが「安い」のだ。
ラーメンのメニューを見れば一番人気の「マルカンラーメン」のお値段はなんと890円である。東京のラーメン屋ですら1000円近いこの時代。素晴らしい値段設定である。
「ざるそば」は620円、「カツ丼」は780円、「チラシ寿司」は980円と安いのだ。
完全に判断に迷ってしまった・・・
食券買わなくてもいいらしいっすよ
さて、どれにしようかしら・・・と悩んでいると徐々に食堂へ近づいていく。いよいよだな!と思っていると、以下のような張り紙を見つける。

「マルカンビル大食堂のご利用方法」というタイトルのポスター。よーく見ると「レジで食券をお買い求めください」と書いてある。それはまぁ知っている。食堂を利用するためには食券が必要だ!とネットで見たもん!注目点はその横だ。
「席に着いたらテーブルのQRコードを読み込んで注文してください」という文言。うん?
マルカンビル大食堂では各テーブルにはメニュー代わりのQRコードが設置されていて、それをスマートフォンで読み込むとクレジットカードもしくはPayPayで決済・注文ができる。といういわゆるテーブル決済が利用できるというのだ。
ほぉ・・・うん?じゃあ、この列は何の列?となった。
みんなこの張り紙を見ないでスルー、列に並び続ける。そんな中、エレベーターから人が当然のように吐き出されていく。中からは老夫婦が。その夫婦は列に・・・並ばずにそのまま食堂内へ消えていった。あれま・・・
ポスターにも書いてある通り、食堂内は「自由席」となっていて、空席は各自で見つけることになっているそうだ。なので、この行列は食券を買い求める人の列であり、着席するための列ではない。
テーブル決済でも構わないのであれば、列に並ばずにそのまま着席することも出来るよ。ということだった。
ただ、店員さんは昼時の忙しさに巻き込まれていて、説明している余裕はなさそうだ。ネットを観ると「テーブル決済を使えば、列は並ばなくても大丈夫です」という口コミも見つける。
あ、じゃあ・・・ということでそのまま列から外れ、食堂内にある空席へ飛び込んだ。
ということで、もし行かれる方でクレジットカード・PayPayを所有し、スマートフォンを使える人は列に並ばずに着席・注文することが出来ますよ。というお話であった。
店内の空気がすげぇ
着席した場所は食堂の入口近く。窓側の座席は人気があり、空席を見つけられなかった。土休日に窓側というのは厳しいかもしれない。平日且つ食事時ではない時間に訪れたならば、チャンスはありそうだ。

昭和レトロの空気が・・・という口コミがあったが、その評判に違わず天井・装飾・食品全てが想像できる「昭和時代のデパート食堂」という感じがしてたまらない。

厨房は大忙しである。中でどんな調理をしているのかを見られるような構造になっている。

天井の照明は夜になればムーディーなんでしょうなぁ。という白熱電球の照明。

テーブルには箸立てが。しかも花柄だ。花柄のポットとか鍋とかありましたねぇ・・・とこれをきっかけに懐かしい感情に耽るとは思わなんだ。

続いてこれ。

うわああああ、あった!あった!懐かしい!
ちなみに「おみくじ器」というらしく通販でも購入できるそうだ。
いやぁ、懐かしいですねぇ!秋田県能代市にあるジャスコのレストランで「そんなのやってどうすんの・・・」と呆れられながらも、母親に100円をもらってぶち込んだら詰まったあの思い出のヤツ!いやぁ、本当懐かしいですね!100円返してくれ!
食う。それだけだっ!
ということで、懐かしさも十分摂取したところで「食事」にシフトしていこうではないか。
テーブルに設置してあるQRコードを読み取ると、以下のような画面に推移する。

そして、そこから購入したい商品を選択。その後、クレジットカードやPayPayを使って決済することで注文は完了する。マルカンビル大食堂のデザート・スイーツ類は食後に持ってくるかどうか?を選択できるので、上手く利用したいところだ。
ということで、メニュー表を見て色んな商品に目移りしてしまったが、今回のメインは「ナポリかつ」とさせていただいた。
大混雑となっていたマルカンビル大食堂内。注文して20分程で、

ご覧の姿で到着。熱々のナポリタンにサラダ。そしてナポリタンでも主役を張れるというのに主役級がもう1人。カツが乗っていやがるではないか。
実際に食べてみると、まぁナポリタンがTHE ナポリタンという味付け。程よい太さのスパゲッティに濃いケチャップの味とサラダのシャキシャキ感がたまんねぇぜ・・・ベイベー。という感じ。
そしてカツ。カツはもう柔らかい。すっと肉が切れるほど。ビックリするほどである。驚きってやつである。
またワンプレートというのも良いですねぇ。なんか小皿ちょこんちょこん。ではなくて、喰らえこのヤロウ!オールスターだこのヤロウ!という感じがデパートの食事感を演出して大変よろし。
さて、ナポリかつだけでも構わないが、スイーツも喰らおうではないか。ここマルカンビル大食堂では「ソフトクリーム」が有名なのだという。
メニュー画面では「10段」と書いてある。

ここまで来たのだ。注文する以外の選択肢があるだろうか・・・行くぜ!
ということで、ソフトクリームが到着。

なんじゃこりゃ。
なぜ10段にした。頭おかしい(いい意味で)である。画像では伝わらないだろうが、ソフトクリームが放つ圧迫感・王者感は店員さんが遠くから持って来る時点でビシビシとヒシヒシと伝わってくるほどだった。
このソフトクリームは箸で食べるのがマルカンビル大食堂ではマナーだそうで、ソフトクリームの腹を掻っ切るかのようにスッと入れる。

上部は真ん中までギッシリである。流石に下部では空洞があったが、身がたっぷりはいっていることには間違いない。
加えて、これが350円である。コンビニで売られている高級アイスとかよりも安い部類だ。
昭和レトロの懐かしさだけでなく、お値段までにも懐かしさを醸し出させるとは・・・恐ろしや・・・
いつまでもあってほしいものです
ナポリカツ+10段ソフトクリームを食べて腹は爆発寸前である。大変美味しゅうございました。

食堂入口付近にはショーケースがあり、これこれぇ!という感じのショーケースがあるので、お店の邪魔にならない程度でご覧になっては如何だろうか。
昭和という時代が徐々に遠くなっていく令和の日本。それでも、こういう時代を楽しめる事、未来に遺していく事で何か新たな発見を見出せそうな気がした。
新しいものばかりでも十分楽しいが、一歩足を止めてじっくりと時代を見つめるというのも乙なものじゃないかしら。
