10月4日に公開された「シビル・ウォー アメリカ最後の日(原題:Civil War)」を見てきたので、少しまとめてみたいと思う。
10月4日の12時。TOHOシネマズのIMAXで鑑賞。ぜひ、IMAXで見られるのであれば、IMAXで鑑賞するのを強くおすすめしたい。発砲音が凄い。とにかく発砲音が凄い!!
概要
「シビル・ウォー アメリカ最後の日」の製作会社は「A24」。
A24はアメリカ・ニューヨークを拠点にし、ハリウッド映画のメジャースタジオとは一線を画す独立系の映画会社だ。
A24が世に送り出した作品の中には、2016年(日本では2017年)公開のアカデミー賞作品賞を受賞した「ムーンライト(Moonlight)」やアウシュビッツ収容所の隣に住む人々の姿をテーマにし話題にもなった2023年(日本では2024年)公開の「関心領域(The Zone of Interest)」などが有名である。
そんなA24が送り出す「シビル・ウォー」、これまでで最も制作費のかかった映画だという。
アメリカでは2024年の4月に公開され、世界中で1億ドル以上の興行収入を記録している。
残念ながら日本でA24と配給を担当するハピネットファントム・スタジオによって上映時期が他国よりも6ヶ月遅れの10月公開となってしまったが、映画館内でのポスターやテレビやインターネット上で展開されている広告の多さから力の入れようはかなりあるように見える。
監督
作品の監督を務めるのはアレックス・ガーランド監督。
小説家として世に出た後、2002年に公開されたゾンビ映画「28日後…」で脚本家へ転身。その後、2015年に公開された「エクス・マキナ」で監督デビュー。
今作では脚本も担当している。
出演者
主演はキルステン・ダンスト。役名は「リー・スミス」
12歳という若さながらゴールデングローブ・助演女優賞にノミネートされたり、ジュマンジ、スパイダーマン3部作と話題作に出演し続けている。
その相棒役の「ジョエル」にヴァグネル・モウラ。
Netflixのナルコスで実在した麻薬王のパブロ・エスコバルを演じ話題にもなった。
そして「リー・スミス」と「ジョエル」と共に行動する「ジェシー」にケイリー・スピーニーが抜擢。
日本では「シビル・ウォー」の前に公開された「エイリアン・ロムルス」の主役になっていたりと勢いのある俳優。
またベテラン記者の「サミー」にスティーヴン・ヘンダーソン。
「ボーはおそれている」や「DUNE/砂の惑星」といった話題作にも出演している。
あらすじ
連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている——」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていくー
Filmarksより引用
期待値
この作品は長らく宣伝されていたこともあって、長らく公開を待ちわびていた。というか、今年一番見てみたい!という気持ちが強い映画だった。
期待度が高まったのはなぜか?
それは「アメリカの分裂」という誰しもが想像するに難くない題材であるからだ。
ここ数年、日本国内で住んでいても分かるほどにアメリカ国内では二大政党の民主党と共和党によるいがみ合いから俳優や歌手、スポーツ選手といった有名人までもが政治的メッセージを強く発したと思えば政治的に対立する相手を非難し、その波は気付けば一般の人々にまで達して。とアメリカ国内は政治的分裂に酔狂する勢いだ。
そんな姿を太平洋から遠く見守っている自分からしてみれば、「いつか分裂して・・・」と思わずにいられなかった。それは大っぴらには言えない妙な期待に近い。
だから、とても不謹慎極まりないのだけれども、「なんかそういう映画待ってました!」と声高に叫びたくなるような内容に見えたため、期待値は自分の中で膨れ上がった。
内容について
長々と自分のことを書いてしまったが、内容について書いていこう。
映画は約1時間40分。
映画が始まるとすでに内戦状態。観客たちは作品内で起きていた分裂の原因をよく知らないままに見ることになる。
ワシントンDCは陥落寸前、大統領は追い詰められていて、と「あら大変のようですね」と井戸端会議の奥様のように他人事の状態で見続ける。
この作品は大雑把に言えば、「内戦状態に陥ったアメリカ国内をジャーナリストが取材しているのを見る」内容だ。
なので、内戦状態に陥ったアメリカ国内で暮らす人々の心情や戦う兵士たちによる派手な打ち合い、混沌とした世の中を縫うように引っ張り出されるラブストーリーといった内容が希薄ということだけ十分に注意してほしい。
口コミサイトでは「想像している内容と違った」と、まるでAmazonの配送の仕方に納得がいかないから商品の星を下げちゃうような内容の口コミが散見される。これから見に行くあなたにはそんな思いをしてほしくはない。
とにかく、この作品は4人のジャーナリスト達がニューヨークからワシントンDCにあるホワイトハウスまで向かう間を描くロードムービーである。
最初は「大変すねぇ」と見ていられるが、後に登場してくるやばい奴らと状況を見て、「あー…」とどんどんと気持ちが下がっていく。
ロードムービーということもあって、一難去ってまた。という感じで、ゾンビが出てこないゾンビ映画的な雰囲気である。代わりに出てくるのは話の通じない無敵な人々である。
無政府状態となった地域を走り続けて、暴力行為も厭わない地域住民と出会ったり、アメリカ人には種類が存在すると考えている兵士に出くわして、
文字だけで内容を読んでいると如何にも映画らしい奇をてらった登場人物がストーリーに色を付けるかのように見える。
しかし、アメリカ国内にはそういう人たちが存在し、コミュニティを成している。映画のどこを見ても、「あり得る」「いるかもねぇ…」という文字と気持ちがちらつく。それが没入感を増幅させる。
主役たちは内戦状態に陥ったこの国の姿を撮り続けるという信条の元で行動していくが、国の崩壊や死の恐怖に体が言うことを利かなくなっていく。
この気持ちの機微も見どころだ。それもまた映画内で見てほしい。
ジャーナリストという人々
作品内に登場するジャーナリスト達の最終目標は「大統領にインタビュー」ということである。そこだけを見ると、利己的な人々に見える。
彼らは、内戦状態である国内をただ傍観者として見守り続ける。途中まではいつもの戦争取材と変わらない。
しかし、様々な環境に置かれると自分が無関係ではないことに気づき始める。そうなれば、ジャーナリストだからとか関係ない。今まで無視してきた恐怖がぶつかってくる。
私達はこのジャーナリスト達がいないとニュースを見ることも得ることも出来ない。
ジャーナリスト達もまた人間であり、感情を持つ生物。ジャーナリストたちが直面した現実で得た感情や葛藤のことなんて知らないで、マウスでポチッと押すか人差し指でタップするだけで一瞬で表示される。そして、読み終えれば消す。
その向こうに人がいることを知らないまま。そして、ニュースを見続ける。
今回の映画では存在が薄く捉えられがちな人々を侘びしく思えた。
映画内では兵士たちがドンパチしている後ろに引っ付いてカメラで取り続けるシーンが散見される。果たしてこれはリアリティがあるのだろうか?と思っていたが、一瞬にして思い出した。
2022年から勃発したウクライナ侵攻。イギリスのSky Newsが公開した映像がある。
車で破壊された街を撮影していると、どことなく発砲音。取材陣は隠れながらも前に進んでいく。
映像のようにどこから飛んでくるかわからない鉛の玉に怯える。
その空間から生き延びれば、世界に現状を知らしめる「傍観者」となれるが、死んでしまえば「戦争で死んだ人」にしかならない。
戦争を追うジャーナリストたちはそんな狭間に立っている。
最後に
「シビル・ウォー」個人的にはとても面白く、久々に映画で感情を揺さぶられてしまった。
パンフレットも買ってしまった。料金は1000円。映画内で撮られた写真の一部も掲載されているので興味がある方は買ってみるのもいいだろう。
2024年の11月。アメリカでは大統領選挙が控えている。
この映画がただの空想と終わるか、それとも、。まもなく答え合わせの時間がやってくる。