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マクドナルドに行くと感じられた非日常感。それは何処へ。でも、食べた瞬間に思い出してしまった。夢に溢れたあの頃と共に・・・
目次
朝マックを食べに
平日休み。政治と経済と人間模様が混沌とするこの時代に於いて、この言葉はダイヤモンドのように輝く。そのダイヤモンドのように輝く平日休みを私は久々に手に入れた。
平日休みの朝はいつもマクドナルドと決めている。理由は仕事があると朝はいつもバタバタしていて落ち着きがない。朝ごはんも適当に作り上げて、適当に食道に流し込んで、適当に胃袋に収めるのがやっとで、ゆっくりとはできない。
だから歩いて5分ぐらいのところにあるマクドナルドへ行って、朝マックを優雅に食したいのだ。

マクドナルドではアプリを通してクーポンが配布されている。2025年10月現在では「月見バーガー」のセットが50円引きだったり、その他のバーガー類も100円引きだったりする。
今回のテーマである朝マックにもクーポンが存在するのだが、定期的に配布されるクーポンが変更されるようになっている。この日のクーポンを覗き込んでみると定番である「ソーセージエッグマフィン」や、
マクドナルドが提供するコーヒーもあった。
ただ、このクーポンの中に見慣れない商品があった。それは「チキンマックマフィン」という商品名だった。
このチキンマックマフィンはハッシュドポテトとドリンク類がセットになっていながらも低価格の390円で提供されていた。

原価価格が高騰し、発売する商品の殆どが値上げを繰り返しているマクドナルドの中では異様な料金に見えた。
いつもソーセージエッグマフィンを食べているような気がしているから、今日はチキンマックマフィンにしてみよう。
私は店内で注文した。これが久々の出会いとなったのだ。
お、おい!お前だろ!あの時の俺だよ!
マクドナルドの提供するスピードは異様だ。客の頭の中でも覗き込んでたのか?商品名が発せられた瞬間に調理できるようになってんじゃねぇの?と思ってしまいそうなほど、チキンマックマフィンは3分少々で到着した。他のハンバーガーチェーンも真っ青になるほどだ。

Mサイズのアイスコーヒーにハッシュドポテト。そして朝から贅沢にホットアップルパイなんかも頼んじゃったりして。

そして主役はチキンマックマフィンだ。白と黄色の中間に位置するような紙で包まれている。

普通にチキンマックマフィンの紙を解いていく。チキンマックマフィンの姿はこうだ。普通だ。

と思ったと同時に、チキンマックマフィンの姿を観た瞬間、頭の片隅に閉じ込めていた学生時代の記憶が一気にぶり返した。
頭の奥がツンと刺激され、一瞬にして学生時代に感じた空気と匂いと感情が一気に思い出される。そして、私は目を潤ませながらチキンマックマフィンに訊く。
「お、お前・・・チキンクリスプだろ・・・」
声を震わせながら訊くが、チキンマックマフィンはまるで他人のように、まるで記憶を失ったかの如く、私の問いに答えることは無かった。
チキンクリスプの素晴らしき思い出
チキンクリスプ。2010年代前半にマクドナルドを訪れたことのある人なら知っているであろう。
チキンクリスプはバンズとチキンパティそしてレタスで構成されている。更にはマスタードが加えられていて、酸味もある。というシンプルな商品だ。

マクドナルドの過去情報を見てみると発売開始されたのは2012年。ロンドンオリンピックが開催間際に発売が開始されたそうだ。
そんなチキンクリスプ。お値段はというと、「100円」である。
そう。100円だ。このチキンクリスプにはポテトとドリンクをセットに出来る「バリューセット」も用意されていて、460円〜480円で提供されていたというのだ。現在の物価高からは到底ありえない値段設定だ。
この値段設定は2010年代に学生時代を過ごした自分にとって大きな影響を与えた。
金が無かった学生時代を支えてくれたわけで
高校生の時の話だ。当時はお小遣いという制度が実家には無く、お金はまぁその都度に親から貰うという戦時中の支給制度か、という方法でやりくりをしていた。
友人たちと遊びに行くとお小遣いがある子はお金をじゃんじゃんと使うのに対して、自分は細々とお金を使うというやり方。どこか窮屈感が否めなかった。
そんな中でマクドナルドに行く機会も存在した。デフレだなんだと言われた時代であっても、当時はビックマックセットなんて600円ほど必要だったはず。そんな値段は金銭的余裕がない高校生にとってあまりにも大きい金額だ。しかし友人はバンバンとビックマックセット!てりやきマックバーガーとナゲット!と軽々しく購入していく。当時は「ふざけんじぇねぇこの野郎・・・」思っていた。今でも思う。
さて、自分は追い詰められたような感覚に陥っていた。まずい・・・!みんなと同じテーブルなのに1人だけ何も注文しないってまるでお金がないみたいじゃないか(実際そうなんだけども)・・・!
とという時。マクドナルドには100円マックというのが存在したのだ。文字通り100円で購入できるメニューのことだ。その中にはハンバーガーやホットアップルパイ、コーヒーが対象となっていて、チキンクリスプもその中にいた。
私は100円マックにすがった。左手に見える100円硬貨2枚。私は笑顔と疲れがにじみ出ている店員さんと相対し、「チキンクリスプとアップルパイをください!」と伝えた。
当時はこれだけで良かったのだ。これだけでビックマックセットやらを頼む友人たちと互角に戦えていたのだ。飲み物を買うお金は無かったけど。
ありがとうマクドナルド。ありがとうチキンクリスプ・・・
しかし、彼の姿は消えていなくなった
しかし時の流れは無情で残酷だ。
チキンクリスプは気付けばメニュー表から消えていたのだ。いや、厳密に言えば消えたというよりも「マックチキン」に置き換わった。
値段は100円ではない。現在の値段は190円だ。中身も変わったのだ。特にソース。一部の情報によればチキンクリスプにはイエローマスタードが使われていたのに対して、マックチキンはスイートレモンソースが使われているらしいのだ。
「違う!チキンクリスプじゃない!」と叫んでも「チキンクリスプだよぉぉぉおおおお!」とマックチキンが近づいてくる。無常にも世間はマックチキンに飲み込まれた。
これによって、チキンクリスプは完全にマクドナルドから姿を消した。まるで存在を消されたドナルド・マクドナルドのように・・・
チキンクリスプの姿を思いながら食す
眼の前にチキンマックマフィン、いやチキンクリスプが久々に現れた。
チキンマックマフィンは文字通りマフィンが使われているので、バンズ部分に違いがある。それでもチキンパティとソースはマスタードと同種類だ。あの時の味と一緒である。
名前は変わってしまったのかもしれない。でも口に含んだ瞬間にピリッとするマスタード。あゝ友人たちと向かい合って食べて、このあとどこに行こうか?と語り合い、無尽蔵に有り余っていた体力を使って動き回った学生時代のあの頃を思い出す。
シャキシャキとしたレタスはマクドナルドで食べることで感じた非日常感も思い出させる。その非日常感はお金では手に入れられない、素晴らしき時代の思い出である。
この国における成人・社会人になってしまったというもの、毎日の生活に苦しさを感じている部分がある。仕事への苦労、将来・金銭的な不安・・・マクドナルドへ定期的に行けるお金を毎月稼げるようになったというのに、学生時代にあった将来への希望や「マクドナルドに行こう!」という楽しさはどこか遠くへ行ってしまった。
何なら「今日はマックで良いか・・・」という妥協点のような扱いをしてしまうこともある。とにかく、
私は変わってしまった。
時代に揉まれた、世界のルールを知ってしまったんだ・・・と言い訳を口にして、学生時代に抱いていた希望や思いをコンクリートジャングルに捨て置いていく。そんな毎日。
この世の中、毎日毎時毎分毎秒と変化がある。出会った人は去った人に変わり、また人と出会う。悲しさや感動を共有することも間もなく。東京はスクラップ・アンド・ビルドの繰り返しで、一瞬だけ目を逸らしたと思えばどこかに消えていなくなる。そんな空間に私も身を置いて10年が経とうとしている。この世のルールを知った気になっていた。
でも、私の奥底に未だ青臭く、物事を知らない無垢な頃の自分が存在した。
「チキンクリスプ・・・いやチキンマックマフィン。僕も変わってしまったよ」
チキンマックマフィンは無言のままである。
「朝マックを好きなときに食べられるような大人になった・・・いや・・・なってしまったよ。毎日の暮らしに疲れて、隙があれば苦労から逃げるような日々だ」
店内が騒がしい。70代ぐらいのお爺さん達がやってきて、大きな声で話し合っている。それでも私はチキンマックマフィンと対する。
「君とまた出会えて嬉しいよ。君の姿に変わりが無くて、僕は本当に嬉しい。君のように老けたとしても、中身は変わらない人間でいられるように頑張るよ・・・」」
チキンマックマフィンは私の言葉には反応を示さない。
「また君と思い出を作れるように」
私はチキンマックマフィンもといチキンクリスプを完食した。

チキンクリスプ永遠なれ
名前が変わったと言えど、ほぼほぼ変わりがないというチキンマックマフィン。
チキンクリスプがあれば、高校生のときはこれだけで十分だった。今も事足りたあの頃に戻ったような気分だ。完食し、トレーとゴミを片付ける。
ただ、マクドナルドを出て私は少し思った。
「もう少し・・・ボリュームがほしいな・・・」
どうやら私は良くない方向に変わってしまったようだ。