自分が田舎で暮らしていた時には、鉄道というのはどうも遠い存在だった。移動はもっぱら車か通学で使っていた自転車。
ただ、東京に出てくると状況は一変。鉄道という存在が生活の中心に入り込んできて、無くてはならない物となった。
山手線を始めとするJR東日本の路線、東京メトロに都営地下鉄。羽田空港に行くときには東京モノレールも使った。それに私鉄もそうだ。東急線、京王線、小田急線、西武線、東武線、京急線、京成線。ゆりかもめも気付けば乗っていた。いやぁ、なんやかんや全部乗ってしまっている。
うん?何か1つ足りない。そんな気がする。
足りないのはあの路線だ
日本国内には鉄道網が大量にあり、そのほとんどがJR線。北海道の端にも九州の端にもJRの路線が毛細血管のように張り巡らす。
ただ、大都市は事情が変わる。東京を始め大阪や名古屋、福岡といった地域には民間の鉄道会社「私鉄」が存在する。
関東近郊に注目してみると、私鉄は9つも存在する。その殆どが東京の中心を走る山手線の主要駅から関東の郊外へと路線を伸ばしている。
ただ、その中でもパッとしないというか、あまり目立たないというか。そんな私鉄が存在する。
それが相模鉄道・相鉄線だ。
まず、相鉄ってなんだって話
相鉄は神奈川県の大都市・横浜と神奈川県の内陸部に位置する海老名や湘南台といった地域を結ぶ鉄道会社。
相鉄の路線は3路線。
- 横浜〜海老名を結ぶ相鉄本線
- 二俣川〜湘南台を結ぶ相鉄いずみ野線
- 西谷〜羽沢横浜国大駅〜新横浜を結ぶ相鉄新横浜線
関東の私鉄の殆どが東京にターミナル駅を構えているのに対して、相鉄は東京都内に路線を持っていない。
東京近郊に重きを置くような生活をしていると、なんとも触れる機会の少ない鉄道路線となってしまう。沿線にめぼしい観光地があるわけでもない。ただ普通の通勤通学路線。
東京から横浜まで行くことはあっても、そこから相鉄線に乗る機会というのは限られた用事が無い限り非常に少ない。
最近では相鉄線から羽沢横浜国大駅を経由して、JRとの直通運転を開始。武蔵小杉・渋谷・新宿といった開発の進行が著しい地域や都心部へダイレクトにアクセス可能となった。
また2023年には同じく羽沢横浜国大駅から新横浜駅への直通路線(相鉄新横浜線)が完成し、東急線(東急新横浜線)と直通運転を開始。これによって、東京近郊の私鉄(東武・メトロ・都営地下鉄)と間接的ではあるが直通運転をすることになった。
直通運転によって相鉄に触れる機会が都内でも爆発的に増えたように見える。ただ、相鉄の路線には足を踏み入れないのが続いた。
まぁ、つべこべ言わず相鉄に乗りに行こう
今回はとある記事を作るために横浜駅から相鉄本線の三ツ境駅まで乗車することになった。横浜駅から約20分で到着する駅だ。これをもって、「人生初の相鉄に乗車」することになった。
相鉄線初乗車で特に気になったのが、「フォント」である。
スマートフォンやパソコンに表示される文字、紙面に印刷された文字に統一感のある文字のことを「フォント」と呼ぶが、駅構内の「フォント」がいい意味で気になった。なんだかおしゃれながらも見やすさもあった。
なんてニッチな記事なんだろう。と自分でも思うのだが、今回は相鉄線の「フォント」について、少しまとめてみよう。
まずは、相鉄最大のターミナル駅である横浜駅をチェックしていこう。
相鉄横浜駅
横浜駅は神奈川県の横浜市の主要駅であり、JR東日本・東急(横浜高速鉄道)・京急・横浜市営地下鉄が乗り入れている。
そんな横浜駅に相鉄線も乗り入れている。相鉄横浜駅のホームは1〜3番線まである。
駅構内へ入るところから、少し見てみよう。
相鉄線の1階改札口前の写真。なんら変わらない駅の表示に見えるだろう。
少し視点を変えて、英語の表記に注目して欲しい。なんだか味のあるというか、駅の表記にしては少々自己主張強めではないだろうか。
乗り越し精算も英語表記の主張がある。
ホームへ繋がる階段横の表記も同じ。
それに停車駅案内も。全ての表記内容に同じフォントを使用している。
数字もまたスタイリッシュで無駄に太くない、でも細いわけでもないという塩梅さ。
駅で使われるフォントとしては何だかスタイリッシュで、他の鉄道会社とは一線を画す。気になる相鉄のフォントは一体なんだろうか。
グラフィックデザイナーの石川祐基さんが寄稿した記事によると、「Rotis SemiSans」というフォントが使われているようだ。
Rotis SemiSansとは
はぁ。Rotis SemiSansねぇ。言われてもピンとこない所もある。
フォントはそれぞれに名前やブランド名が付けられている。今、お手持ちのスマートフォンやパソコンが表示している文字達にも名前がある。
パソコンと言えばWindows(Mac派の皆さんすみません)だが、一般的に游ゴシック体というフォントが表示される。
またiPhoneだとヒラギノ角ゴシックというフォントが表示されるようになっている。
それを踏まえて、Rotis SemiSansとは何だろう。
Rotisとは、ドイツのグラフィックデザイナーであるオトル・アイヒャーが1988年に開発した書体を指している。
SemiSansとはタイプ(種類)を指すらしい。タイプによって文字の形や端末に酔って表示できる文字も変わってくるという。
壮大なプロジェクトによって成されていた
相鉄は前述のJR・東急との直通運転を控えていた2017年頃から「相鉄デザインブランドアッププロジェクト」を開始。
アートディレクターには様々な分野のデザインを手掛け、多くのデザイン賞を受賞という輝かしい経歴をお持ちの洪恒夫さんと 熊本県の「くまもん」の生みの親でもあり、鉄道関係だとJR東日本のポイントサービス「JREポイント」を手掛けた水野学さんが関わっている。
このプロジェクトによって、相鉄の車両はネイビーカラーに統一。駅もガイドラインに沿って更新、設置されているベンチもこのプロジェクトに沿って作り直している。
いつも見ている風景の奥にあるもの
なんか良いなぁ。と思うものには、素晴らしい才能を持った人たちによってアイディアが出され、それに何度も手直しがあって、研磨されて出来上がった物によって成り立っている。
何気なく掲示されている看板や路線図・時刻表には深い深い考えが眠っている。そう思うと、駅にはまだまだ見つけられていないモノが隠れているような気がする。