朝5時。自分は浅草駅前に立っている。
とある映画を見たら、浅草に降り立ってみたいと思ったんだ。あの主人公が起きるであろう時間に。
PERFECTな映画を見たんです
ここ最近、自宅で映画を見たのだ。それは役所広司さんが主演の映画「PERFECT DAYS」である。
東京都・渋谷区に設置されている公衆トイレ「THE TOKYO TOILET」の清掃員をしている主人公の物語である。
あらすじに関してはレビューサイトなどで是非ご覧になっていただきたい。
この映画は一度映画館で見たことがあった。人生の浮き沈み・機微で繊細な人の思いに触れてどこか心が温まる映画だったのを覚えている。
そして先日、Amazonプライム・ビデオで見放題として公開されていたのをきっかけに「何気なしに」もう一度見てみることにした。
やはり、独特の空気感が広がっていて、スクリーンで見たときと同様の気分になった。ここでふと思ったことがある。それは舞台が浅草周辺であり、「自分が見てきた浅草と空気が違う」ということ。
自分が何気なしに訪れた浅草近郊の雰囲気と全くもって違うように見えた。浅草寺はいつもゴミゴミとしていて、どこかアングラ感がある。ただ新宿や池袋、品川といった如何にもな東京な雰囲気とはかけ離れている。所謂、下町の空気感。
でも、映画に広がる浅草は違って見える。
もちろん映像に施されているフィルターであったり演出であったりと人の目で見るよりも魅力的に映るような処理をされているのはわかる。ただ、あの映画の空間がどこか愛おしく思えた。主人公が朝早くに起きる時間帯、あの舞台に立ってみたら、東京の浅草周辺は何か違って見えるのだろうか?
そう思うと、居ても立っても居られない。
12月上旬。いよいよ2025年の終わりが見えてきた東京。一気に寒空が広がり、寒風も吹く浅草に「朝5時」に向かうことにした。
浅草駅前に立つ
自宅の最寄り駅から始発電車に乗り込んで東京方面へ。電車の中にいる人達は仕事のためなのか、スマートフォンすら見ずに眠りこけていた。

1度乗り換えて、浅草駅の前に立った。
浅草駅の文字が煌々と光っていた。ここ浅草駅の地下には主人公が良く行くお店がある。
そこでお酒を飲んで、簡単な食事をするというルーティーンをする。その舞台を撮りたいなぁと思ったら、地下で
「うぁああゝあゝあゝ」
とうめき声というか怪獣のような叫び声を挙げているオヤジがいた。うん。撮るのは控えるか。早速、1発目から企画が破綻してしまったが・・・懸命な判断だった気がする。
浅草駅前の交差点を渡ると有名なお店の看板が現れる。「神谷バー」だ。

創業が明治13年という老舗バー。電気ブランが有名なお店だが、流石に朝5時。興味本位で覗く観光客の姿はない。
近くには東京メトロ銀座線の浅草駅への出入り口がある。

すでに5時01分で渋谷へ向かう始発列車が出発している。人は動いていなくても地下鉄はすでに動いている。そしてそれを動かしているのもまた人間である。
近くには観音通り。ここもまた朝から晩まで人がひっきりなしに居るエリアだ。

ただ、流石に人気はなかった。遠くの方で酒瓶を回収しているトラックがいたり。夜の後始末が進められていた。
雷門to浅草寺
雷門入口の看板。ただ、それを見る人は自分以外にいない。

そして、雷門。仲見世商店街の通りの先までしっかりと見える。昼間では絶対に観ることがない姿だ。

雷門交差点という大きな交差点が近くにあるが、車通りが少ないため、地面を風が駆け抜けていく音が響いている。こういうのも朝早くじゃないと訊くことは出来ない。

雷門を潜り、仲見世商店街へ。もちろん店の人もお土産を買おうとする観光客の姿はない。近くに住んでいるであろう人が静かに散歩していたり、

ランニングしている姿を観た。

雷門から徐々に浅草寺へ近づいていく。のだが、街灯が1つもなく浅草寺の姿が暗闇にボヤケながらも浮かび上がる空間がそこにある。

浅草寺。暗闇の中であっても圧倒的な大きさ。

何かお参りでもしようか・・・

おみくじでも引こうか・・・と思ったが、ここで現金を1つも持っていないことに気付いた。

流石にそんな状態では何もすることはできない。ただ東京に強く吹く風の音だけを聞くことにした。
スカイツリーが覗き込んでいる
浅草の近くには東京スカイツリーがある。高さ634mという巨大建造物は浅草の街からもすんなりと頭を上げるだけで見ることが出来る。

隅田川の川面には建物から漏れ出る光が反射するが、

そこにはスカイツリーも鏡写しのように写っている。
この日はここ1週間ぐらい東京では快晴だったというのにその週で唯一の曇り空であると天気予報で言っていた。ゆっくりと白んできた空はどこか青みがかっていて、その青みがスカイツリーの壁面と同化しようとしている。

桜橋
映画「PERFECT DAYS」のワンシーンで自転車に乗りながら主人公が移動するシーンがある。そのシーンではスカイツリーそして隅田川を1つにまとめることが出来る橋が登場する。
その橋は「桜橋」である。
浅草駅から約1.2kmと少し遠くまたスカイツリーからも約1.1kmの場所に位置する。この橋は歩行者・自転車専用の橋となっていて車の通行が出来ない。そのため、ゆっくりと隅田川やスカイツリーを眺める事ができる。

主人公が自転車に乗りながら浅草駅周辺を目指すシーン。そこでは別段なんてこともないただの移動シーンだというのに、どこか軽やかな印象がある。仕事が終わり、どこかホッとしながら、ルーティーンを始める。

隅田川の中央付近に立っていると、いくら東京都内の中でも下町感が強いと言えど、浅草側の向こうには高層ビルが乱立していて都会じみていることに気づく。
逆にスカイツリー側は首都高速以外は目立ったものがなく、住宅地が広がっている。

あの主人公も日常ながらも楽しさが溢れる街へ進むと思えば、どこか軽やかな気持ちになっていったのだろうか?いや、それは自分の考えすぎなのかもしれないけど。
東京にも朝がやってくる
青々しく、どこか海深くに沈んでしまったような色をした空も白んできた。

舗装された河川の近くを歩くとブルーシートで覆われた場所が強く揺れているのに気づく。住所不定の人が住まう場所だ。
そこから1人男性がノッソリと這い出てきて、空を見上げている。自分もそれを一瞥したが、釣られて空を見上げた。
白んでいた空は静かにグレーに染まっていた。くすみのある空、やはり青々しい空を見たいな。とまた東京に思わされる。

