気になったから福島第一原発付近の町へ行って、自転車で走ろう(前編)

気になったから福島第一原発付近の町へ行って、自転車で走ろう(前編)

2024年10月4日
[更新]2024/10/08:一部タイトルを変更しました

きっかけ

ここ最近、X(旧Twitter)で福島第一原発について投稿している人を見かけた。

その人は引用ポストを使って、「風評被害」を広げているユーザーを強く非難していたのだ。
「これはデマであり、福島県に風評被害を広めるものです」という内容。

引用元を見てみると、
「被爆は現在でも続いていて、農作物や周辺住民にも健康被害が発生している」という投稿。

投稿したユーザー曰く原発事故の実態を投稿し続けている、という。
しかし、それらの投稿には科学的な根拠がないであったり、間違いを有識者から指摘され続けている。

ただ、この時に思った。

これだけヒートアップしている内容に「そうなの?」と思うところがある。
そして、「福島県の原発事故について何も知らない」と。思ったのだ。

東日本大震災の発生当時はニュースで周辺地域の避難情報や原発の状況が流れていた。

時間が進んでいくごとに建物が朽ちて、道路には雑草が生えて、人は遠く離れたまま。 その後も除染作業や周辺地域での放射線量の現状などが細々に流れていった。

事故が発生して気付けば13年が経過していた。

原発事故は未だに廃炉という結末まで長く難しい道を歩み続けているが、自分は原発事故によって影響を受けた地域の現状を全く知らない。

過去を知っていても、今を知らない。それはどうも、失礼な気がしてきた。

ならば、原発事故が発生してしまった周辺地域をこの目で見てみたい。

インターネットやテレビといった誰かが出した情報をそのまま胃袋にいれるのではなくて、その場の空気と熱を浴びて自分の目と足でその場に踏み込みたい。そう思った。

福島県・富岡駅まで向かう

今回、福島県の富岡町に向かうことにした。
福島県の富岡町に行った理由は3つの行きたい場所があるからだ。

東京から福島県の第一原発近くの地域まで向かう方法としては、車以外となればJR東日本の常磐線の列車に乗り込むのがベターだ。 東京から千葉の松戸や柏を通り、茨城県へ向かっていく常磐線を乗り継いでいけば、原発周辺地域でも主要駅となる「富岡駅」に向かうことが可能だ。

そんな常磐線では特急列車が走っている。 1日に3本の列車が品川から仙台まで常磐線経由で走り抜けてくれる。 常磐線の特急は「ひたち」の愛称で親しまれ、富岡駅にも停車をする。

今回は9月20日、品川を7時43分に発車の特急ひたち・3号に乗車し、富岡駅へ向かった。

特急に乗る人達の流れ

特急ひたち3号は品川を7時43分に発車した後、東京・上野と東京の主要駅で人を拾い、柏・土浦・水戸・勝田と千葉県・茨城県の主要駅に進んでいく。

自分は柏駅から乗車し、10号車の席に座った。

特急ひたち。以前のフレッシュひたち時代に使われていた緑色でやってきた。

特急ひたちに充てられるE657系電車は座席上部に特急券の予約状況がわかるランプが設置されている。赤いランプは空席・緑のランプは座席が押さえられていることを示しているのだが、柏駅の時点で全てに緑のランプが灯っていた。

後ろもまた同じような状況。

柏を出て最初の停車駅である土浦では人が降りていくことは無かった。

10号車の人たちの殆どがスマートフォンを触っているか、出勤前の体力回復のためか貴重な睡眠をとっていた。

茨城県の県庁所在地である水戸。駅に到着すると10号車にいた人たちの大半が降りていった。ここでやっと空席が現れ始める。

画面中央の奥の方に海が見える。特急では一瞬しか見えない。

列車は沿岸部に差し掛かって、海の姿を捉えることができた。勝田・日立に差し掛かると乗車している人数は残り少ない状態に。

列車は福島県に入っていき、いわきに到着した時点で10号車に乗り合わせていた人は自分を含めれば数名となっていた。

いわき駅から富岡駅へ

乗車している人数よりも空席が目立ち始めた特急は静かに発車。

途中までは並走する道路には車がひっきりなしに走っていたが、次第に車の数は減少し建物も比例するかのように少なくなっていく。

どんよりとした雲に踏切。海岸が真横にあるのに踏切は仕事をしている。

海岸線を長らく見る時間があった。今日の波は穏やかだ。

特急ひたち3号は10時58分に富岡駅に到着した。品川から3時間以上を要しての到着だ。 ちなみに特急列車はそのまま走り続けて、仙台に12時28分に到着する。

富岡駅に到着

特急が到着してホームに降り立っての感想は、「降りる人が多い」ということである。

10号車は1番後ろ。それよりも前にも降りた人はいる。

改札に向かう乗客。多くの人が男性というのも特徴的だった。

金曜日とはいえど平日で利用者はそこまで多くはないだろう、もしかしたら自分一人だけがポツンとホームに立ち尽くす。そんな風に想像していた。しかし、スーツ姿のサラリーマンを中心に多くの人が特急列車から降りていく。これには少々驚きがあった。

特急がホームを抜けていくと、乗客も改札方面へと向かっていき閑散とする。静寂が包んで寂しさが膨れ上がりそうだ。

車掌さんは前方を確認し続ける。お疲れ様です。

改札付近

改札付近には精算機が設置されていた。JR東日本管内の駅であればよく見る精算機。

無人駅から乗車した場合に乗車駅証明書の精算もこの機械でできてしまう。

ここでICカードや切符の精算が可能だ。

注意点として高額紙幣を利用しての精算は不可能
呼び出しボタンを押して、駅員さんと通話するような形で対応される。可能であれば、乗車駅から富岡駅までの切符は用意しておきたいところだ。

精算機近くには放射線量を測定する空間線量計が設置されている。

機械から黒く太いケーブルが天井に向かって伸びている。

銀色のケース、赤と黒の表示が嫌でも気になる。
こんな風に画面に表示されている「0.067μSV/h」は高いのか、低いのか。
見た瞬間では残念ながらわからない。それ以前に、表示されているこの数値はどんな意味を持つのだろうか。

空間線量計が出す数値の意味

μSV/h」の読み方は、「マイクロシーベルト・パー・アワー

意味は、「放射線の1時間あたりの被ばくによる影響を測る単位」

環境省が示す空間放射線量率は「毎時0.23マイクロシーベルト」。

年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以下となる時間当たりの上限値とされている。前述の0.23の数値は自然放射線も考慮されての数値だ。

それらの基準を考慮してでも、改札付近に設置されていた空間線量計の数値は基準を遥かに下回っている。ということになる。

0.23マイクロシーベルトという数値は原発周辺地域を知る上で重要な基準値となる。

改札を出る

改札では自分の切符をチェックしてくれる駅員さんも自動改札機も無い。出迎えてくれたのは簡易改札機だ。

無人駅で多く見るタイプ。JRでは「簡易Suica改札機」と呼ばれる。

ちなみに、2020年の常磐線前線再開から富岡駅は東京近郊区間に編入されているため、特急の始発駅でもある品川駅からSuicaやPASMOといった交通系ICカードを利用することが可能となっている。

品川から仙台まで直通だが、交通系ICカードを使って通しで乗車は不可能。

ただし、富岡駅から以北にある浪江駅までしか交通系ICカードを利用できないので注意したい。

到着した10時58分以降、東京方面は12時37分、仙台方面だと12時57分まで電車はやって来ない。

最終目的地は仙台。ということで今回は15時46分の特急まで周辺を散策してみることにしよう。

レンタサイクルを借りようではないか

富岡駅の改札を出て右側に富岡町観光協会の案内所がある。

富岡町のガイドマップ。右上には帰還困難区域が色塗りされている。

元々は2017年の富岡駅が代行バスを運行の上で再開をした際に開店した「さくらステーションKINONE」という店舗があった。

しかし、2021年に昨今のコロナ禍の影響を受けて閉店。その後、観光協会が跡地を利用して案内所を開設。という経緯がある。

案内所には観光マップやイベントのポスター、とみおか復興応援キャラクターである「夜の森さくら子」のポスターが貼られている。

復興歌謡祭のポスターや植樹祭のポスターもある。

そんな案内所ではレンタサイクルを貸し出している。

利用可能時間は9時から16時30分。
料金は3時間未満だと500円。3時間以上の場合は1500円となる。 レンタサイクルがあれば、移動には便利だろう。ということで中に入る。

案内所に入り近くにいた観光協会の方に「レンタサイクルをお借りしたいのですが」と申し出ると快く受け入れてくれた。 利用条件である身分を証明できるものを提示し、申込用紙を記入。そして、担当の方と一緒に自転車の利用方法をチェックする。という流れ。 身分を証明できるものとして、運転免許証やマイナンバーカードといった顔写真が確認できるものが一番いいだろう。

自転車は電動アシスト付き自転車。充電も満タンで貸し出してくれた。それに加えてヘルメットも用意されている。頭の大きい自分でも入るサイズだったので、大半の人は大丈夫だろう。

準備は整った。早速、自転車に乗り込んで富岡町を回ろう。

富岡町を走り出す

富岡駅のロータリーを抜けると新し目の建物が目に飛び込んできた。一軒家やアパートといった住居の他にホテルもある。

そして、自転車を進めていくと大きめの建物が見えてきた。

授業中なのか静かだったが、蛍光灯が光っているのがわかった。

ここは富岡町立富岡中学校。第一中学校と第二中学校が合併して出来た学校である。 学校の窓に「故郷にかがやく未来を」と掲げられている。みんな普通にここで学んでいる。

1つ目の行きたい場所「とみおかアーカイブ・ミュージアム」

この記事の序盤で「3つの行きたい場所がある」とご紹介した。

その1つ目は「とみおかアーカイブ・ミュージアム」である。

富岡駅から距離にして約2.4km、車では6分程度で到着する場所にある。

とみおかアーカイブ・ミュージアムは2021年7月に開館。

町の成り立ちから原発事故の影響を受けてしまった町が変貌していく様子を収めた博物館で、原発事故に強い興味を持った自分には行くべき場所だと思えたのだ。

ミュージアムへの道中では警察署や東京電力の関連会社の建物などがあったが、更地がどうしても目に入ってくる。まだ復興中であることを思い知る。

警察署の写真左下には震災時に殉職された警察官の名が彫られた碑文がある
ここにも建物が立っていたというのは自分にもわかる。

途中で常磐線の高架下を抜けた。 そこの壁には富岡第一中学校と第二中学校が制作した壁絵があった。 第一中学校が制作したのは、日本で一番小さいとされた漁港「小良ケ浜漁港」の絵。 第二中学校が制作したのは福島県の重要無形民俗文化財のも指定されている「麓山の火祭り」の絵。

そのまま急な坂を登っていると横には富加町役場があり、その先に看板が現れる。看板の真横に「とみおかアーカイブ・ミュージアム」がある。

中へ入る

自転車を駐輪場に停めて、入口へ向かっていると「電源立地地域対策交付金事業」という看板が目に入った。

電源立地地域対策交付金とは一体なんだろうか。

 「電源立地地域対策交付金」とは、発電用施設の設置や運転の円滑化を図るため、電源地域の都道府県及び市町村で実施される公共用の施設や地域住民の福祉、利便性向上を目的とした事業に対して交付されるものです。

福島県 エネルギー課のホームページより引用
電源立地地域対策交付金
www.pref.fukushima.lg.jp

原発事故の伝承を伝えるために、交付金事業で開館したこのミュージアム。その中身は本来の使用用途とは少し違うような気もする。これは人によって、受け止め方は変わってくるはずだ。

常設展示の序盤は古文書や土器の展示、富岡町の昔からの産業について紹介されていく。 古代から近代にまで時間を遡っていくように展示を見ることができる。 そして、後半では震災についての展示へと変わる。

このミュージアムの特徴として、震災の被害を受けた町というのが第一としてある。

それに次いで、町の近くに原子力発電所を誘致し且つ原子力発電所によって周辺地域の発展を願っていたという側面が見れることにあると思う。
事故が起きてから原発の存在が絶対悪のように言われることもあるが、当時の地域住民の方々が抱いていた期待と感情をガラス越しではあるが、ミュージアムやってきた人々に見せている。
これを知った上で原発事故について見ていくと気持ちは揺れる。

緊急時に備えて。これ以外にも原発完成時の資料がある。

震災について展示はどこか生々しく重たい感情を抱かせた。
容赦なく襲ってくる真っ黒の津波の写真と対策に追われた災害対策本部の再現、富岡町に設置されていた改札。

そして、津波によって押しつぶされてしまったパトカー。 これらが腹の奥に重たい空気を作り上げる。

ミュージアムの後半には避難所で張り出されていたメモや針を進めるのを止めてしまった時計などが展示されている。

自分は渡される映像を見ただけで全てを知っていた気になっていたんだな、と改めて思わされた。

夜ノ森駅へ自転車で

とみおかアーカイブ・ミュージアムを一通り見て回り終えて、次の目的地へと向かう。 今回の旅で行きたい2つ目の場所。「夜ノ森駅」である。

夜ノ森駅は富岡駅から仙台方面へ向かって最初の駅。 駅周辺は2020年の3月までは帰宅困難区域として指定されていたが、一部の避難指示が解除に加えて富岡駅〜浪江駅間の再開によって駅が再開された経緯がある。 次はそこに行ってみよう。

自転車に乗り込み、駅へ向かっているとランニングをしている男性を見かけた。車の通りも少ない中、男性は一生懸命に走り続けていった。

自転車を漕ぎ続けていくと、富岡駅付近よりも更地が多いことに気づく。 最近建てられたであろう住居の周りは何も無い更地、という場所が多い。
所々で避難指示が解除されたあとも解体工事がされていない建物も見受けられた。

広い空き地の奥に立派な住居。

夜ノ森駅付近には「夜の森桜並木」があって、桜が満開時期になると非常に綺麗な桜並木が出来上がるそうだ。

花の王国ふくしま 花の名所「夜の森桜トンネル(相双 富岡町)」のご紹介
www.tif.ne.jp

桜並木を抜けると夜ノ森駅前へと出る。

2つ目の行きたい場所「夜ノ森駅

夜ノ森駅は橋上駅。東西へ抜ける通路にはレゴブロックで作られた桜並木も掲示されている。

この駅も富岡駅同様に簡易精算機が設置されていて、東京近郊まで交通系ICカードを利用して乗車できる。

画像奥にある空間線量計は0.149マイクロシーベルトを指している。富岡駅より高い数値が出ている。

駅のロータリー近くでは解体されずに残された店舗がある。
特に目を引いたのは自動販売機。 今では見かけなくなった商品や時代に取り残された値札が未だに自動販売機の中に入っている。

タバコの自動販売機もまた震災当時の料金のまま。 これらが撤去されて、新たな自動販売機が設置されるときはあるだろうか。

タバコの自動販売機の値段は410円が多い。2024年現在は500~600円台。

夜ノ森駅周辺を探索する

夜ノ森駅周辺を散策していると、公園にたどり着いた。
広々とした空間にポツンと遊具が置かれている。平日の昼間ということもあるが、人気の無さも相まって寂しさが募る。

公園内にも放射線量を測る空間計測器があった。 富岡駅よりも数値が高いのがわかる。

0.187マイクロシーベルト。夜ノ森駅より数値は高い。

またさらに自転車を飛ばしていく。すると、時々ではあるが中型トラックが横を抜けていく。 進む方向には国道6号線があり、原発関連のトラックと予想できる。

トラックが抜ける時に地面が強く揺れ動く。しかし、すぐに静寂が優勢になる。

バウムハウス・ヨノモリ

人気が無く、寂しい気持ちでいっぱいになりそうな夜ノ森駅周辺ではあるが、Googleマップを覗けば飲食店のマークが表示されているではないか。

BAUM HOUSE YONOMORIは、福島県双葉郡富岡町夜の森地区にある生米粉100%バウムクーヘン専門店です。2023年8月にオープンしました。素材にこだ…
www.yonomori-baum.com

表示されていたのはバウムハウス・ヨノモリ。 富岡町の米粉100%使用のバウムクーヘンを製造しており、玄米・さくらもち・プレーンの3種類を発売している。 当時は限定のさつまいも味も発売されていた。

肝心なバウムクーヘンの画像はバクバク食べてしまったので、なし。すまんね。

夜ノ森駅周辺では数少ない飲食店。 ふらっと立ち寄った自分にも店員さんは熱心に説明をしたり試食を提供してもらった。

数ある商品の中から玄米のホールをチョイス。 しっとりしていながらも玄米の仄かな香りが感じられて美味い。 もっと他の商品も購入すれば良かったとのちに後悔している。

バウムクーヘンの写真は美味くてバクバク食べてしまったのでなし。すまんね。

まだまだ復興は始まったばかりの夜ノ森駅周辺。そんな場所で新たな一歩を踏み出したお店に出会えて良かった。

後編は↓からどうぞ

気になったから福島第一原発付近の町へ行って、自転車で走ろう(後編)
[更新]2024/10/08:一部タイトルを変更しました 前編はこちらから↓ https://tetsu-dakawa.com/2024/10/04/20241…
tetsu-dakawa.com